この痛みは酸性雨 | ナノ




そういうわけで、急遽一人暮らしが始まった佐助に金銭的余裕があるわけではなかった。政宗に一人暮らしをするから一緒に来ないかと告げ、彼の家族に内緒で故郷を飛び出したあの卒業式の日には、親戚夫婦が最初の一ヶ月は、と渡してくれた一ヶ月分の家賃と交通費に少し上乗せした程度しか持ち合わせていなかった。佐助は学生時代に稼いだお金をほとんど浪費していたし、政宗は自分でお金を稼いだ経験すら無かった。しかしこれはある意味で当然のことであった。

(だって俺たち、まだ未成年よ。)

既にいくらか手を付けてしまった親戚夫婦に貰った家賃分と今月入る給料を併せてようやく来月の家賃と高熱費が払えるくらいだろうと佐助は考えた。しかしそれだけで生活が成り立つわけではない。
食費や日用雑貨、様々なことにお金はかかる。

「んーバイト増やす、かなぁ。」

しかし今以上に政宗を一人にさせるのは佐助にも辛いことであり、かといって政宗をあの家から出すことはやはり出来ないのであった。

「え、佐助バイト増やすの?」

ひょっこりと顔を出したのは先輩の前田。

前田は新人の佐助にも気さくに話しかけてくれるし佐助が同棲をしていると聞けば姉の作ったという料理をお裾分けしてくれるような、優しくそしてお節介な人物であった。

「ああ、いや、まだ決めてないんですけど。」

「何、生活しんどいの?」

「はぁ。まぁそんなもんです。」

佐助はこの前田が決して嫌いではなかったが、出来ればこのことに関しては深く関わらないで欲しかった。佐助は自分と政宗の関係を誰にも知らせる気は無かったが、お節介な人間である彼なら無理にでも自分達のことを聞き出そうとするだろうと安易に予想できたからだった。

しかし佐助の予想に反して前田の話は実に意外なものだった。

「じゃぁさ、いいバイトあるんだけど、やらない?」

休憩室の扉をぱたりと閉めて、前田が声を顰める。

「いい、バイト、ですか?」

佐助が前田の様子を窺うように顔を見やれば、前田は相変わらず人の良さそうな顔を浮かべていた。

「あのさ、まぁ内緒なんだけどね。」

パイプ椅子に腰を下ろし、顰めた声で話し出す前田は佐助と違いまだ勤務中の筈であった。それでも佐助は黙って前田の話の続きを待った。





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