病院の服を貸してもらい、特別に佐助の病室に入れてもらえば、佐助が何とも間抜けな顔をして政宗を見た。 「俺、天国にでも、来ちゃった?」 「っばか…」 ぽろぽろと溢れ出る涙で政宗の視界は歪む。それでも佐助の顔を見たいのかごしごしと目を擦れば、佐助が困ったように笑いながら点滴の刺さっていない方でその腕を止めた。 「政宗、あのね」 部屋には政宗の嗚咽と秒針の音だけが響く。 「俺何回振られたって政宗のこと大好きで仕方ないんだけどどうしたらいい?」 佐助としては泣き止ませるつもりで言った言葉だったのだが政宗はとうとう声を出して泣き出してしまい、佐助は困惑する。そして、あ、と声を上げ政宗が片手で抱えていたリュックをするりと取った。泥で汚れていたそれは先程看護師が政宗に着替えをさせている間に綺麗にしてくれたらしかった。佐助は慌ただしくリュックの中を探るとさっきと同様に唐突に声を上げた。 「あった!」 「…?」 「いやー失くなってるかと思ったけど誰か入れてくれたのかな。」 ぶつぶつと独り言を言う佐助の声は、しかし嬉しそうであった。政宗がそれを不思議そうに見つめていると佐助が顔を上げた。 「政宗寂しい思いをさしてごめん。信じてもらえないかもしれないけど、疚しいことなんて無かったよ。」 いつもと違う真摯な表情で、佐助が続ける。 「あのさ、政宗がまだ俺と同じ気持ちでいてくれるんならさ…こんな俺で良かったら、なんだけどさ、」 ぱか、という音と共に開かれた箱には少し泥が飛んでいたが、中には輝かしいシルバーのリングが収められていた。 「結婚して、くれない?」 ベタでごめんね、という佐助の照れ隠しも聞かないで政宗はぎゅうと佐助に抱きつく。体は痛くないのか、信じられなくてごめん、なんて言葉は溢れ出る涙で声にならなかった。 「さすけ…すきっ」 後は唯、言葉も無く抱きしめてキスをする。二人にとって何日かぶりの温もりだった。 「市、新聞を見なかったか。」 「長政様…新聞なら、ここ。」 「なんだお前が新聞を読むなんて珍しいな。どんな記事だ?何々…入院患者とその見舞い人失踪?争った形跡など無いことから事件の可能性は低く…なんだこんなことに興味あるのか。」 「写真、出てるの。」 「ん?あぁ、確かに。ってまさかお前この男に惚れたとか言うのではないだろうな!」 「違うの。ただ、市、なんだかほっとしたの。」 「ほっとした…?ううむよくわからんが、まぁいい。」 私の中の二人の印象は、 中学生の男女の様に初々しく、 長年連れ添った老夫婦の様に朗らかで、 この二人は会うべくして会ったのだと、 どこかでそう思っていた。 そして今だって二人はきっと一緒にいるのだと思うと私はなんだか安心したのでした。 |