政宗の家を見つけるのは実に安易であった。だいたいの場所は本人より聞いていたし、後はニュースで流れる映像から分析すればいいだけで、思いの外あっさりとたどり着くことができた。 「でかい…」 佐助はポケットの中のものを弄りながら無意識に呟いた。『伊達』と書かれた表札のはめ込まれた門は荘厳で、壁の奥に見える屋敷は佐助と政宗の『愛の巣』とは比べものにならないほど大きかった。 事件に何の展開もみられないからかマスコミの姿は無く、広い敷地は静かなものだった。佐助は少し躊躇した後にインターホンを鳴らした。 『はい、どちら様でしょうか。』 抑揚の無い声が機械を通して伝わる。 「政宗君の友達なんですが、」 本来なら恋人なんですが、と言いたいところであるが何も事を荒らしにきたわけでは無かった佐助は穏便に、ただ政宗に会わせてもらおうと、自分達の関係を友達と言ってみせた。 『わざわざお越し頂き申し訳ないのですが、政宗様は非常にお疲れでして…』 「それはよく分かってるんです。でも少しだけでも会いたくて。」 『しかし、』 「佐助が来たって伝えて下さい。会えるまでここで待ってます。」 まだインターホン越しに何か言っているのが聞こえたが佐助はヘッドホンでそれを遮断する。インターホンにはカメラが備え付けられているから返事をせずとも帰ったとは思われないだろう。 (佐助が来た、だなんて…傲慢かな。) 理由は何であれ自分のせいであの生活を失ってしまったことを佐助は後悔していた。政宗はもしかすると自分に嫌気が差したのかもしれないと。 しかし、それでもなお政宗との愛を信じ、佐助は政宗に謝り、そして再び二人で暮らすためその場で待ち続けた。 ぎぎ、と音を立てて大きな門が開いたのは佐助が待ち始めて2時間後のことだった。 「っ!」 諦めることなく門に背を向けて座っていた佐助は、門の開く音と共にヘッドホンを取り勢い良く振り向いた。 「……あの、」 「手前が猿飛か。」 佐助の予想に反してそこに立っていたのは、体格の良い厳つい顔の男だった。 「そう、ですけど…あの、政宗君は、」 「政宗様は手前にはお会いにならねぇ。」 「は、」 「何度も言わせるな。政宗様はお会いにならないと仰っている、って言ってんだ。」 その口調から、冗談でないことなど明らかだった。政宗が会わないと言う理由も佐助は痛いほど分かっていた。それでも佐助は、引き下がらない。 「少しで良いんです。顔が見たくないなら、話だけでも」 せめて帰れなかった三日間の理由と、一人にしたこと、ご飯を食べてあげられなかったことを謝りたかった佐助は一歩門へ近づく。 「待て。」 それを目で牽制した男は、胸ポケットから携帯を取り出し操作する。そのほんの数秒の動作も佐助には妙に長く感じた。 「政宗様に繋がっている。」 男がいくらか言葉を発した後にそう言って差し出された携帯を受け取る。 「政宗?俺だ、佐助だよ、」 『ああ。分かってるよ。』 それは、穏やかな声だった。 佐助にはもう、目の前にいる人物のことなど考える余裕もなかった。 「政宗、寂しい想いさせてごめん。ごめんね?」 『うん。』 「政宗に、渡したいものあるんだ。謝らないといけないこともあるんだ。だから、」 『佐助、』 それは、穏やかで、優しい声だった。 『ごめん、会えない。さよなら。』 |