私の中の二人の印象は、 中学生の男女の様に初々しく、 長年連れ添った老夫婦の様に朗らかで、 この二人は会うべくして会ったのだと、 どこかでそう思っていた。 卒業式が終わると、生徒達は教職員らを取り囲み記念撮影を始める。中には泣き出す教員もいて、辺り一帯が感動の雰囲気に包まれる。 「市せんせ、」 「猿飛くん。」 そんな感動の渦から少し離れた花壇に、保健医の市はいた。 「せんせはあそこ行かないの?」 眩しい色の卒業生は相変わらず着崩した服で市の横に腰掛ける。持ち物は卒業証書とやたらと大きな鞄だった。 「市は、生徒のみんなと仲良くなかったから。」 俯いた市の言うことは、確かに事実であった。彼女のその陰気な雰囲気を好まなかった生徒達は、保健室に訪れることもまた、好まなかったのだ。 「そんな、俺市せんせのこと好きだけどな。」 にこりと笑ったその顔に悪意はない。実際佐助は保健室を恰好のサボり場としていた保健室常習者だからだ。市にとって佐助の好意が市本人にあるのか、それとも人を寄せ付けない自由な保健室を提供してくれる処にあるのかは大した問題ではなかった。たとえ後者であっても生徒から好きと言われることは間違いなく喜ぶべきことであったからだ。 そのまま二人で盛り上がる卒業生達を眺めていると、佐助がいつも以上に機嫌が良さそうなことに市は気が付いた。佐助の笑顔はいつものことだが、機嫌が良い、のは殆ど無いことなのだ。 「猿飛くん、ご機嫌なのね。」 「へへ、わかる?」 佐助は嬉しそうに市を見た。 そして少し顔を寄せ、まるで内緒話でもするかのように声を顰めた。 「あのね、市せんせ。」 佐助が言おうとしたその言葉は、別の声によって遮られる。 「佐助、」 市が声のする方へ目を向けると、右目を眼帯で覆った、見目麗しい青年が立っていた。 「政宗っ」 政宗と呼ばれた青年はこの学校とは比べものにならないくらい優秀な私立高校の制服を着ていたが、それでも注目の的にならないのは此処が卒業式という大きな行事の会場だからだろうか。 「市せんせ。」 ぼんやりと眼帯の青年を見ていた市は佐助の声に、再び佐助へ視線を向ける。 「猿飛くん、この子、」 「市せんせにだけ、教えてあげるね。」 市の隣に座っていた佐助が立ち上がり、眼帯青年の肩を抱く。その顔はやはり幸せそうで、その様子を見ていた市もなんだか幸せになるような気がした。 「俺達、けっこんするんだ。」 二人の住むアパートは、 ひどく古びた、 六畳一間に、 窓がひとつ。 私には何故か、 ラプンツェルの幽閉された塔を 連想させたのです。 |