ぴり、とラップを破る。すっかり冷めてしまったと思っていた料理は実はまだ少し熱を持っていたようで、ラップにぼんやりと水滴を付けた。 佐助が帰らなくなって三日目の夜。 狭い冷蔵庫の中には丸三日分の食事が窮屈そうに詰め込まれている。一日目に作った少し豪華な料理は、もう傷んでしまっているかもしれないなと思いながらも、政宗はそれを捨てるという行動には移れないでいた。 「佐助、帰って…くるかもだしな。腹、減ってるだろうしな。」 言い聞かせるような言葉は、虚しく空気を振るわせる。誰の返事も無いこの空間が、数日前まで自分の幸せの象徴であったことさえ今の政宗には俄に理解できないでいた。 「佐助、さ、佐助」 ぽつりぽつりと名前を紡ぐ。 その度に政宗の冷静な─初めから冷静な思考などなかったのかもしれないが─思考がぎちぎちと音を立てて崩れていく。 「佐助佐助、会いたいっ会いたいんだ、」 膝を抱え小さくなるに比例して、その声も小さく、悲痛なものとなっていく。 「あいたいのにっ────」 ひたり、と部屋に静寂が訪れる。 部屋に一つの蛍光灯が、ちか、と点滅した。 「さすけ…」 それを合図にしたように政宗がゆるりと顔をあげ、目を細める。 「…食材、無いんだった。明日の朝ご飯、碌な物作れないんだ。」 のそりと立ち上がり、今まで決して一人では手をつけたことが無かったお金に手を伸ばす。千円札を一枚だけその中から抜き、ジーパンのポケットに綺麗に折り畳んで入れた。 「ちょっとだけ…買い物してくる。すぐ、帰るから。」 ぎいぎいと厭な音を立てて古びたドアが開く。 「約束破ってごめんな、佐助。」 その日、月は、嘘のように明るかった。 |