知らない間に傷口は、じくじくと広がっているのだと、人のいない保健室で私は思った。 あの日から、佐助の帰りは遅くなった。 「ごめんね、先に寝ておいて」 「晩ご飯いらないからね」 「明日もバイトだから」 そんな言葉ばかりで、会話も減っていたある日、とうとう佐助は帰らなかった。 その日は遅くなるとの一言だけだった為、政宗は久しぶりに一緒に食事が出来ると張り切って料理をした。佐助が頑張って働いてくれているから無駄遣いはしたくなかったが、少しだけ、ほんの少しだけいつもより食材を沢山使って、二人の好物ばかりを作った。 しかし、待てども待てども扉を開ける錆び付いた金属はしない。政宗はローテーブルの前に小さく座り、ラップで包まれた冷めた料理は今日もまた食べられないのかと、涙の膜を張った。 例えば、単にバイトを掛け持ちしているだけなら、遅くなるとことはあっても帰ってこないことなんてあるのだろうか。 ふ、と政宗に疑念が浮かぶ。 何故佐助は自分に今まで優しくしてくれたのだろうか。自分は働きもしない、男、なのに。 「ちがうっ」 自分の考えを追い払うように、政宗は叫んだ。 料理だけが並ぶしんとした部屋に響いた自分の声をどこか客観的に聞きながら、政宗はぽつりと呟いた。 「さすけ…あいたい…」 |