そのとき前田はバイト先の休憩室で姉お手製のお弁当を食べていた。突然鳴り出した携帯を開き、暫し目を丸くする。 「あれ、佐助じゃん!珍しいなー」 『あ、すみません。今お時間大丈夫ですか?』 「平気だけど?」 『あの、』 「ん?」 『こないだのお話、今から受けるとか大丈夫ですか?』 政宗が目を覚ますと、そこは六畳一間のアパートだった。がば、と体を起こせば頭がくらくらとした為その場で頭を押さえる。その際ふと小さなローテーブルに紙とお皿が置いてあることに気付いた。 「これ…」 『政宗へ 政宗もう貧血は平気? ご飯ちゃんと食べなきゃダメなんだからね!というわけで今日の政宗の晩ご飯はこのレバニラです!ご飯は冷蔵庫にあるよね?絶対食べてよ! お昼ご飯は電子レンジの横にパンが置いてあるのでそれ食べてね。(もうお昼過ぎたと思うけど) 俺はちょっと急にバイト入ったので出てきます。帰りは遅くなるので先に寝ていてね。』 「くそっ」 政宗は後悔していた。佐助を手伝うはずが、気を遣わせてしまったことに対してだった。さらに言えば、最後の二行に対してでもあった。 「バイト…」 今まで佐助は決して深夜のシフトは入れなかった。それは二人の暗黙のルールみたいなもので、出来るだけ二人でいられる時間を作りたかったからだ。明確にルールとして決めていたわけでは無かった。しかし、佐助の意志でないにしても、深夜のシフトを受け入れたという事実が、そこまで彼に気を遣わせてしまったという後悔の念に変わるのだ。 「佐助…ごめんなさい、」 早く帰ってきて。 声にならない声で呟いたその言葉は、愛しいその相手に届くことはなかった。 |