「はい、じゃぁこれ被って。」 「佐助、暑い。」 「ごめんね。我慢して。」 佐助のバイトが休みの今日は、二人で買い物に出掛ける約束をしていた。この買い物で、一週間分の食材や日用雑貨を買い込む為本来なら車での外出が好ましいけれど、勿論のこと二人にそんな手段は無かった。 「よし、これなら政宗ってばれないでしょ、」 深めに帽子を被せ、大きめのサングラスをかける。ストールでさりげなく口元を隠せば確かに個人の判別はつきにくくなる。 買い物にこのような準備が必要なのは、政宗が行方不明者の扱いを受けているからに他ならない。つまり政宗は、政宗の家族には内緒で家を出てきた為、家族から捜索願いが出され、世間では小さくニュースで取り上げられるくらいには知られているのだ。 よって、見つかってしまえばこの二人の生活は見事に崩れ去るということで。 「本当は俺一人で行きたいけど流石に一週間も外に出ないのは政宗にとっても良くないと思うから。さ、行こうか。」 「ん。」 お互いの存在を確かめ合うように手を握り、寂れた街を進む。少し離れた場所にあるスーパーで買い物することになっていた。 「へ?」 「だから、にんじんもじゃがいも米もまだあるからいい。」 そう言って精肉コーナーへ足を進める政宗を佐助は引っかかりを感じながらその後ろをついて歩く。繋いでいた手はいつの間にか離れていた。 「ねぇ、」 「なんだよ。」 「野菜はさ、いいとして。お米は?毎日食べてるじゃん。」 「まだ半分残ってる。」 「うそ」 「嘘じゃねぇよ。」 ふい、と顔を逸らした政宗に佐助は、はっとする。 「もしかして、お金のこと気にしてる?」 ぴくりと政宗の肩が動いたことも見逃さずに佐助は続ける。 「確かにお金は大切だけど、厳しくなったら俺もっとバイトするしさ。政宗が気を遣う方が俺嫌なんだよ。」 そう言って佐助が肩に手を置くと、政宗は少し難しい顔をしたかと思えば、切ないくらい綺麗な顔を佐助に向けた。 「俺だってこのまま二人で暮らしてたいんだ。お前にだけ負担はかけらんねぇ。」 だから、な。と続けるつもりだった声は出なかった。 「…政宗?」 美しい顔はそのままに、長い睫に縁取られた切れ長の目が閉じていくのを、佐助はまるでスローモーションでも見るように見つめていた。 |