ネジ
 
 
毎日毎日、社会を構成する、一本のネジとして、馬車馬の如く。

「おつかれー」
「おー佐助、ありがとね!」
「いやいや、お給料弾んでもらったし。松さんの御節お裾分けしてもらったし。」

一月一日、午前四時。
友人、前田慶次の姉が経営する食堂(という表現が正しいのかはわからない)の手伝いを終わらせ家へ帰る。左手にはタッパーに入った何年かぶりの御節、右手には自販機で買った缶コーヒー。

「さむ、」

まだ月が出ているこの時間帯。さすがに人通りはなく、普段は禁煙禁煙と五月蝿い掃除のおばちゃんもいないだろうと煙草に火を点けた。

「うま。なんでコーヒーと煙草って合うのかね。」

風に流れていく紫煙を見送りながら、年末年始関係無く働いた自分へのご褒美が缶コーヒーと煙草だなんていかにもらしくて思わず笑ってしまった。

(社会を構成?俺さまが?)

「烏滸がましいね、」

俺が死んでも社会は動く。俺という存在は、あってもなくてもいい。歯車から外れたネジなのだ。

(そうだ死のう。)




「ただいまー」

起きているかもわからないのに、声をかけてしまうのは、起きていて欲しいという願望の表れなのかもしれない。

「政宗?」
「佐助…おかえり、」
「ただいま。」

首に電気毛布のコードを巻き付けた片割れが眠たげな目を擦って明けましておめでとう、と言った。



「何してたの?」
「んー?」

濡れた髪を乾かしてやりながら訊ねると、政宗は間延びした声で答えた。

「死のうかなって。」
「なんでまた。」
「なんとなく。俺、ニートだしな。」

双子だから。お互いしか知らないから。不思議なテレパシーがあるから。理由はさておき、俺には政宗の自殺願望の理由が手に取るようにわかった。

「奇遇だね。俺も同じこと考えてた。」

ドライヤーを切り、御節のタッパーを開ける。つやつやの黒豆を摘まんで食べた。

「俺と政宗は社会から不要な存在なわけだ。昔から。」
「That's right!」

親に捨てられ、二人で生きてきた。そうだ、元々社会に組み込まれてなんていなかったんだ。

「だから俺達、双子なんだ。」

社会で生きてく価値はなく。だからといって死ぬこともなく。

「一人で生きてくには、寂しいからね。」
「寂しいか?」
「寂しいよ。政宗がいないならね。」

政宗は満足そうに笑って、俺もお前がいなけりゃ寂しいな、と鼻唄でも歌うみたいに言った。

「だから死のうとするのやめてね?」
「うん?お前も同じこと考えてたんだろ?」

珍しく口で言い負かされそうになった俺は慌てて政宗の口を塞いだ。






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