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今思えば、過去の記憶など、思い出さなければよかった。そうすれば今のこの状況を、何の疑問も持たず受け入れられたのに。

「政宗殿…貴殿のために俺は、なにができるであろうか。」

相変わらずの屋敷から離れた温室。ブーゲンビリアに囲まれたソファに座る政宗殿の手を優しく握る。遠い昔六爪を握っていたであろう手は、手入れされて白く美しいが、痩せ細っていた。

「片倉殿に貴殿のことを伝えた方がいいのか…」

本来なら、迷わずそうすべきでいった。しかし、片倉殿が佐助のように変わってしまっていたなら。万一にもないと言い切れるのだろうか。

「それならいっそ…」

自分の目の届くところに…

「まぁた勝手に入っちゃって。」
「さ…ご主人様、」
「いいけど、別に。でも間違えても、片倉の旦那に連絡とかしないでよね。知られたところで一町工場の工場長になんかできるわけでもないけどさ、面倒じゃない。」
「御意、」

名残惜しい政宗殿の手を離せば、その目がゆっくりと俺の顔を見た。俺と違い、名残惜しいだなんて微塵も思っていないような感情のないその目を、俺は憐れに思った。

「では、失礼いたします。」

政宗殿と佐助、両方に頭を下げ、温室の出口へ向かう。

「ああ、そうだ真田。」

ブーゲンビリアに二人の姿が隠れたとき、猫のような上擦った政宗殿の声が聞こえた。

「これは俺のだよ。間違っても、欲しがったり、しないようにね。」

高い天井に艶かしい声が響きだした。

「俺はどこで…選択を誤ったのだ…」



(ルドベキア:正しい選択)



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