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初めて出会ったとき、それこそまさに雷が落ちたような衝撃だった。

「政宗殿…」

表情は暗く、衰弱しきってはいたが、すぐに彼だと分かった。忘れるわけがない。気の遠くなるような昔から、彼のことを見ていたのだから。

「政宗殿、ようやくお会いできた…」

俺には幼少期から、とあるイメージが常に頭に浮かんでいた。所謂前世の記憶というものなんだろうが、当時はいつも、もやもやとした気持ちを抱えていた。
そして年齢を重ねるにつれイメージは増えた。鮮明な映像として繋がっていくそれを、俺はようやく記憶なのだと理解した。ずっと昔から慕っていた人を思い出し、会いたいと思った。さらに、最近勤めだした仕事先に、"元部下"がいることを知った。俺は嬉しかったが、複雑な気持ちだった。佐助は俺を庇って死んでおり、記憶の有無に関わらず、会わせる顔がないと思った。だからこそ、政宗殿を探すのではなく、この世では佐助のため、今までしてもらったお返しをしようと決めた。
だが、政宗殿を温室で見つけたとき、全てが変わった。

「あっれーやっぱ旦那も記憶あるんだ。」

気配もなく、握っていた政宗殿の手が引かれた。

「佐助…おまえ…」
「んーまぁ今は敬語云々いいや。ここ、入っちゃダメって言わなかったっけ?」

にこやかに笑う佐助は、当時宛らの殺気を備えて俺を見ていた。

「佐助、どうして政宗殿が…何故こんなところに閉じ込めておるのだ!」
「都合の悪いことは答えないってとこ変わってないねぇ。育て方間違えたかなぁ、」
「茶化すな!」
「じゃぁ教えてあげる。これは俺様の。俺様が見付けて、ここに連れてきた。以上。」
「な、んだそれは…」

何一つ間違っていないかのような佐助が奇妙で仕方なかった。佐助とは、このような人間だっただろうか。この時代が彼をこうしてしまったのか、或いはかの昔、忍であったときからこのような敵意にも似た感情を俺に向けていたのだろうか。

「そんな顔しないでよ、旦那。俺は別に旦那を恨んだりなんかしてないさ。忍のときは忍のときなりに、プライド持ってやってたし。」

淡々と語りながら、佐助は政宗殿を抱き寄せた。抵抗もせず大人しく抱かれている政宗殿が信じられなかったが、この衰弱しきった様子を見れば当然とも言える。

「そう、あんたを恨んでなんかないけれど、運命というものがあるなら、恨めしいね。」
「運、命…」
「どうして俺は忍だったんだろう。どうして彼は一国の主だったんだろう。何故俺は耐えなくてはならないんだろう。何故俺の命は、人の命の重みと違うんだろう。」
「佐助…」
「だから、この世界では何がなんでも俺は自分の欲望を通すことにした。地位も財産も、それに相応しくある。そして、最も望んだ『これ』を手に入れた。手放す必要もなければ、誰かに盗られる危険を犯す必要もないと思わない?」

そんな佐助の命を犠牲に生き延びた俺には、佐助の想いを責めることなどできない。前世での恩返しにできる限り佐助の望みを叶えてやりたい。


「だが、政宗殿は…政宗殿の意志はどうなるのだ。」

今目の前にいる政宗殿は、どうみても自分の意志でここにいるようには思えない。佐助が無理に捕らえているなら、それは許されることではないのではないだろうか。

「意志?そんなの必要ないじゃん。」
「佐助、貴様なにを…」
「真田、俺様を誰だと思ってる。佐助でも、貴様でもないだろ。」

冷えきった佐助の目は、それでも俺を恨むような色を見せない。

「なにも政宗を虐めてるわけじゃない。ちゃんとかわいがってるし、愛してる。」
「だが…」
「何度でも言う。俺はあんたを恨んでなんていないし、忍だった頃のことだって誇りに思ってる。でも、俺が望んだこれさえも奪うと言うなら、いくらあんたでも…許さない。」



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