クピドのため息
 
 
初めて伊達という存在を意識したのは、入学してから二週間を過ぎた頃だ。入学初日の自己紹介でもその外観に世の中って不平等だと嘆いた記憶があったが、席が特別近いわけでもなかったし、俺のような凡人は凡人同士仲良くなるのが世の常だ。
そんな少し遠い存在だった伊達を近くに感じたのは、ある日の体育の時間だ。

「じゃぁ、横の者とペア組めー」

教師の声に体を回れ右させる。

「どうも、」
「ん?あぁ、よろしくな。」

ペアになったのは、伊達。よく考えれば、入学式以来、まともに顔を見たのはこのときが初めてだった。

「伊達ってイケメンだよなぁ、ほんと。」
「はぁ?」

思わず出た本音に、一瞬訝しげな顔をした伊達は、俺の間抜けな顔を見て、ふは、と笑った。

「お前、おもしろいな。」

その笑った顔が、脳裏に焼き付いて、離れない。その日から俺は、気が付いたら伊達を見るようになっていた。



伊達は正直、クラスで浮いていた。
嫌われているとかじゃない。近寄りがたいのだ。
例えば、頬に傷がある男に黒塗りの高級車で送り迎えをしてもらっているから、その筋の跡取りなんじゃ、という噂。さらに授業はいつも寝てるのに、成績優秀。鞄や小物は高級ブランド。
妬むとかのレベルにすらいかないが、やはり凡人は付き合い辛い。
だから教室では一人でいることがほとんどだったし、本人もさして気にしていないようだった。但し、ペアを組むときは、あの体育の一件以来自然と俺と組むようになっていた。ちょっとばかし優越感を感じていたのは内緒だ。

そんな日常に少しの異変があった。

「伊達ちゃんいます?」

鮮やかすぎるオレンジに、拡張されたピアス穴、センス良く着崩された制服、香水の香り。

「いるよ。呼ぼうか?」
「うん、お願いー」

隣のクラスの猿飛佐助。何時の間にかちょくちょくうちのクラスで見かけるようになっていた。しかも、皆が近寄りがたいとしている、伊達の周りで。

「伊達、隣の猿飛が来てるぞ。」
「あぁ…」

伊達に知らせれば、読んでいた文庫本に閉じ、席を立った。

「最近よく一緒にいるけど、仲良いのか?」

仲が良いから一緒にいるんだろうに、何を聞いているんだと自分で笑いそうになったけど、伊達は弾かれたようにこちらを見た後、目を伏せた。

「まぁ…それなりに。」

伏せた瞼が微かに震えて、頬にうっすら朱が射した。

「なんだ、そんな…」

初めて恋した女子みたいな顔して。

思わず出かかった言葉を飲み込み、引き留めて悪かったな、と伊達を見送る。猿飛の顔を見た瞬間の伊達の表情を見るのに何となく気が引けて、俺は席に戻った。

それからというもの、ついつい二人の姿を追うようになってしまった。正確に言えば、伊達の姿を追うと、漏れなく猿飛がついてくる、ということなんだが。
伊達はクラスにいるときのつまらなさそうな表情と違い、くるくると表情を変える。猿飛は、俺達に見せるような考えの読めない笑顔じゃなく、小動物でもかわいがるかのような顔で伊達を見る。
こんな変化に気付いてる奴なんてあまりいないと思うけど、あの日、伊達が目を伏せたときの俺の予想は恐らく少しも間違っていない。別に同性だからどうとか、俺が猿飛苦手だからどうとか、俺の方が先に仲良くなったのに、なんて言うつもりはない。むしろお似合いすぎてて応援したくなるいくらいだ。

「じゃぁペア作れー」

でも。

「じゃ、俺ボール取ってくるから、伊達待っといて。」
「OK,」

このときの優越感ばかりは、許されるんじゃないだろうか。







(Title:箱庭さま)



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