短編小説 | ナノ










〜〜……♪



花が笑う。

蜜の香りに誘われ集まった蝶にまぎれて、座った少女の肩に一羽の鳥がクルクルと喉を鳴らした。

風に囁くように乗る少女の鼻唄が言葉もなく音を刻む。
リズムをとるように揺れる草花と木の葉に、少女は瞳を細くして同じように揺れた。



――♪



控えめに、踊るように軽快に。

羽ばたいて寄ってきたゲストは傍にある樹の枝へ羽を落ち着けて、またある者は土のクッションへ。

そんな様子に嬉しそうに頬を染めた少女はただ、音を紡ぐ。


「…………ん……」


少女の足の隣で、草が音をたてて動く。

しかし彼女は気に止めることなく唄い続けて、首を傾げた小鳥と顔を合わせて自身も頭を傾けた。
まるで自然と共演しているような、そんな感覚。
増える観客に、少女はただただ微笑む。

また一羽、羽ばたいて来て、彼女の傍らに降り立った。



「……ぃ、っててて!」



突然張り上がる声。
少女の周りを囲んでいたギャラリーが一斉に羽音を上げて散っていく。羽ばたきと木の葉がざわめく音に顔を上げて、彼女もまた声を止めた。

名残を残すようにふわりと落ちてくる羽が、風に揺られながら手元へ舞い込んでくる。

「……ったく、ひどい目覚ましだな」

寝転んでいた人はゆっくりと上半身を起こして、鼻の頭へ落ちてきた羽をつまんでくしゃみをひとつ。
ポリポリと後頭部を掻く頬には、鉤爪に引っ掛かれて出来たミミズ腫れが。大きく欠伸をしながら眠そうに半開きの目を擦る姿に、少女は思わず小さく吹き出した。

「なんだ。なに笑ってる」
「だってピオニー様、みんな逃がしちゃうんですもの」

大丈夫ですか?と笑いながら彼の頬に手を当てると、赤く腫れている傷に指を這わせて瞳に弧を描く。イテテ、と片目を瞑るピオニーは、笑う少女に視線を落としてからすっかり静かになった周りを見渡す。

木陰から覗く瞳がいくらか見えて、まだこちらを伺っているのが知れた。

「また歌えば寄ってくるだろ」
「雑な言い方……」
「間違ってないだろ?お前の唄が心地良いのは俺も同じだ」

そう言うと再び横になって空を仰ぐ。
肺いっぱいに空気を吸い込んで目を閉じると、頭の横に咲いた花から甘い香りが鼻をつついた。


「今度は反対の頬に傷ができますよ」


少女が言うと、ハッと目を開けてまた起き上がる。
慌ただしい仕草に、彼女はまた笑った。

「ただ寝たいだけなんじゃないですか」
「違う、断じて違う。お前の唄が聞きたいんだ」
「さっきも同じこと言って寝てたじゃないですか」
「気持ちよくて眠くなるんだよ。ちょうど昼寝どきだし、いいじゃないか」

ピオニーは体の向きを変えて座り直すと、少女の手をとる。
彼女が疑問に首を傾げるよりも早く、もう片方の手も退けると、彼は空いた膝の上に頭を乗せて横になった。


「ちょっ……!陛下!?」
「これなら怪我しない。名案だろ」
「も、もう……」

どれだけ寝たいのだろう、そんなことを思いながら溜め息を吐いて、さっさと瞼を閉じた顔に視線を落とす。
腫れた頬にまた指を添えて、ゆっくり撫でた。


「……次は、わたしにもしてくださいね」


囁くように呟いて、少女も瞳を閉じる。

スッと吸い込んだ空気が気持ちよくて、膝の上は暖かくて、自分まで眠くなってしまいそうだと笑みをこぼした。



……――



澄んだ空気に流れる音が、言の葉を紡がぬ声が柔らかく波を描いて乗っていく。

木陰から覗く観客が草花に囲まれる二人を更に囲んで見守りながら、また演奏会を始めようと声を上げた。



***―――――――


掲載時期:2015/12〜2016/8


グランコクマの音楽がとても好きで、予期せぬ場所で久しぶりに聴いたとき、どうしてもグランコクマのSSが書きたくなってできたものでした。
SSって毎回時間かけて書いてたんですが、時計見たときに三十分しか経ってなくて驚きました。BGMの力ってすごい。



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