短編小説 | ナノ
海が見渡せる丘の上。
一面花が咲いて、いろんな花が開いて、種類なんてものは俺にはわからないが、たくさんの色に囲まれている。
「綺麗でしょう。ここからは水平線も一望できてしまうのよ」
そう言って、風に揺れる帽子を押さえながらキミは言った。
花を踏まないように歩く姿はなんとも愛らしい。
「夜になれば、満天の星空が見られるの」
言って、空を仰ぐ。俺もつられて雲を追った。
幻想的で、本当に綺麗な場所…。そう呟いた彼女の服が靡いて、まるでそれは一輪の花のように。
ずっと海の方へ向いて俺に背を向ける少女は、風に吹かれる度に髪が揺れて帽子を押さえた。
さく、と後ろ姿に近づけば、彼女は振り向いてしゃがみ込む。
「花…。気に入ったのなら、持って帰ればいいんじゃないか?」
俺が口を開くと、彼女はむっとした様子で俺に目を向ける。
「花だって生きているのよ。そんなことしちゃだめ…」
慈しむ瞳で花弁を撫でれば、まるで何かを受け取るかのように嬉しそうに微笑んだ。
「それに…」続ける彼女は、今度は笑って俺の視線をとった。
「ここで咲いているから、綺麗なんじゃない」
部屋の一輪挿しで飾られている花じゃ、この美しさは出せない。花弁を子供の頭を触るように撫でながら、その瞳は嬉しそうに花を見つめる。
再び近づいて同じようにしゃがみ込めば、彼女の帽子が頭にあたる。
「…綺麗だな」
瞳を覗いて言うと、嬉しそうにキミはこちらを向いた。近い距離に一瞬戸惑った仕草をしたが、それでも笑顔で頷いた。
「ね。こうして頑張って咲くから、綺麗になるのよ、きっと」
「…こっちもだけど」
え、と声に出た瞬間、海からの突風が吹き抜けた。同時に、彼女の帽子が宙を舞う。
パサリ、向こう側に落ちた時には、キミは俺の腕の中。
「ガ、ガイ…!?あ、あの…っ」
「俺は、キミが綺麗だって言ったんだよ」
動揺する少女を、腕の中から逃げないように力を込めた。
綺麗に咲いている花を、キミを、こうして刈り取ってしまったら輝きを失ってしまうのだろうか。
花は自由でなければ、綺麗なままではいられないかい?
黙ってしまった『花』は、恥ずかしそうに俯いたままだ。
「……なんて、な。こんな風に抱きしめられるようになったんだ。大した進歩だろ」
パッと手を離すと、彼女はさっと飛び退いた。
おいおい。これじゃまるで昔の自分を見てるみたいだ。
真っ赤に顔を染め上げた少女は、俺に向かってタコみたいに頬を膨らめて言った。
「…からかう、っとか!――……馬鹿っ!」
そのまま駆けて帽子を拾うと、その場所で立ち止まって鋭い目線を俺に向ける。
真っ赤に染まり上がった肌、少しだけ潤みを帯びた瞳は、なんとも微笑ましい限りだ。
「――笑ってる!」
「笑ってないよ」
「笑ってる!」
「笑ってない」
「笑ったわ!」
むくれた顔で食ってかかる。
大人びて見えて、時折見せる子供っぽい仕草がたまらなく可愛いと感じてしまう。
俺は変だろうか?
「わかった。悪かったよ。――でも、さっきのは謝らない」
「な……ど、どうしてっ!」
「そりゃ、悪いと思ってないからだ」
綺麗な花のままでいてもらうにはどうしたらいいんだろうな。
それでも俺は、キミをこの手に抱きしめたいんだ。
刈り取らなければいいのなら、キミを意識させるだけ。
まだ少し動揺して帽子を構える少女に、俺は再び近づいた。
「花を持って帰る方法を、見つけちまったかもしれない」
ぽかんと理解のできていない額に、そっと唇を落とした。
先程と同じように徐々に熱を帯びてくる顔は、息を止めてワナワナと震える。
キミの咲く場所はキミが決めるなら
キミが咲くのを、俺の隣にしてくれないか?
微笑んだ先にある瞳は、今はまだわかってないみたいだけど。
いつか、きっと、必ず。
俺の大切な『花』を、手に入れてみせる。
***―――――――
掲載時期:2012/5〜2013/5
初めて書いた、夢小説っぽい夢小説でした。赤面しながら書いた記憶があります。
未だに最後の一文はもう少しセンスなかったのかと思いますが、女の子のことを花って言うガイ、結構似合いますよね。[ 1 ]
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