Épelons chance | ナノ



89.繁栄と衰微の星霜





「フゴフゴ……」



よく晴れた午後の空の下。

草むらをかき分けながら、鼻を鳴らして腹這いにのっそりと進むブウサギの首には妙にごてついた首輪が。



「……ぶヒっ?」

「お、見つけたか」


マルクト軍基地の真裏にある、今の時間だとあまり陽の当たらない敷地外の高地。
茂る草の中で首を傾げたブウサギに、首から伸びる紐を握った青年が近寄ると、落ちていた枯れ枝が折れて音をあげた。

目の前に生えた、そう高くはない一本の樹を見上げて溜息混じりに苦笑いを落とす。


「陛下……。よくまあこんな場所まで……」
「ブウサギを使うのは卑怯だろ、ガイラルディア!」

木の葉のドームの中から声を上げるのはこの国の皇帝。また公務から逃げ出して、今宮殿の中はそこら中で兵士が走り回っている。

「卑怯と言われましても……」
「こんな陽気の良い日に机に縛り付けられる気持ちがお前にわかるか?いいから、たまには昼寝させろ」
「昨日も同じことを仰っていた気がしますが……」

枝の上でうーんと大きく伸びをして欠伸するピオニーに呆れながら、ガイは再び溜息を吐いて項垂れた。飼い主に似るのだろうか、ここまで連れてきてくれたブウサギも先ほどまでとはうって変わって静かになり、陽の当たらぬ涼し気な草の上に伏せて気持ちよさそうにウトウトしている。それにもまた苦笑しかできない。

この様子なら逃げ出すことはないだろう、と持っていた手綱を地面へ置いて皇帝を引きずり戻そうと樹に近づいた途端、彼の肩にポン、と手が置かれ、軍人がその前に歩み出た。

「いい加減になさってください、陛下」

その顔を見るやいなや、げ……と嫌な物を見る目で顔を顰めるピオニーに、彼もまた呆れたように溜息を吐きだした。

「あなたが仕事をしないせいで迷惑を被る人間の身にもなってください。懲りない人ですね」
「説教なら聞かんぞ。俺は癒しが欲しいの。ジェイド、お前も幼馴染なら、たまには俺を特別扱いしてくれてもいいじゃないか」
「ほう……」

いじける皇帝を余所に、彼は懐から一冊の文書を取りだした。

「……ん?」
「ローレライ教団から書状が届きました。これの内容次第では、あなたの我儘に付き合ってさしあげてもいいですよ」
「ローレライ……本当かっ?それを先に言え!」

それを聞いた皇帝の表情が一変する。
枝から飛び降りてジェイドの手から書状を受け取ると、急くように熱心にその中身を確認し始めた。豹変した態度に思わず呆気にとられるガイは、“公務から逃げ出した皇帝陛下の捜索”に珍しくついてきたジェイドに怪訝な瞳を向ける。

「お仕事ではなく、私事になりそうですね」
「……?」
「どうかご内密に。お願いします」

ふ、と笑みを送られるも、その意味が理解できない彼にとっては更に疑問が募るばかり。
ガイの疑問に答えをくれることはなく、時も置かずに嬉々とした顔を向けたピオニーは、持ちあがった口角で声を弾ませた。








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