Épelons chance | ナノ
86.En arriere pleurer
「大丈夫か?アニス」
彼女の足から崩れた石壁のような瓦礫をどかして、ガイが問いかけた。ありがとう、と続けて「わたしは大丈夫だけど……」と目をやった先に、へたり込んだままの少女が尚も虚空を見続けている。ガイもそれに目をやって、複雑そうに眉を寄せた。
「なあ。シンクってどんなやつだったんだ?」
問いかければアニスも同じように眉を寄せて、うーんと唸りながら腕を組む。
「……わたしが知ってるシンクは、いつも人を馬鹿にして、いっつもつまらなそうにしてるってだけ。ミカルがあんなになるのは、正直よくわからないよ」
神託の盾騎士団、基、六神将の中でも、一人孤立していたというシンク。ヴァンの下についているだけ。それは他の六神将にも言えることだが、その中でもやはり一人だけ違った意味で必要以上に慣れ合うことをしなかったという。
「そうか……」と動く視線は呆然とする背中に再び向いて、彼女の心中へ想いを巡らせる。
「シンクが人に何かしたり、人の事考えたりっていうのもなかったことだしさ。ミカルの何が特別だったんだろ……」
「同じ境遇で同情でもしてたのかなぁ」と続けて口にするアニスにガイは何も答えず、その疑問は時間の波に攫われていく。単純に同じレプリカだから、というわけでもない。ルークもイオンも、他にもたくさんレプリカはいても、等しく同じ感情を抱いているわけではなかっただろう。ルークとイオンと違うところは、二人は共通して見捨てられた過去があるということだけだった。
「……とりあえず、少し放っておいてやろう。気持ちを落ち着けるには時間も必要だろ」
動かぬ背中に音も立てず、二人は疑念を抱きながら見守っていた。
86.En arriere pleurer
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