Épelons chance | ナノ
02.太陽の調べ
端正な屋敷が立ち並ぶ貴族地区。
ミカルの住まう屋敷はそこにあった。
他と比べると少し小さく控えめな、それでも少女が独りで住むには十分すぎる程の大きさ。
ミカル・ティアーニ、彼女は数人の使用人と共にそこで暮らしていた。
ティアーニ家は、マルクトの一貴族の名前。
小さい頃に両親が亡くなり、今ではその顔すらも思い出すことができない程成長してしまった。
彼女は時折思う。
その名を継いでよかったのだろうかと…
02.太陽の調べ
朝の日が眩しい程に窓から溢れると、同時に鳥の鳴き声が聞こえた。
なんと爽やかな朝だろう。
ミカルは小さくあくびをすると、壁にかけられた洋服に手を伸ばした。
「…今日もこんな軽装してたら、みんなに怒られるかしら」
その手には、およそ貴族が身を包むものとは言い難い粗末なワンピース。
さすがに寒いので、厚めのタイツとカーディガンを羽織り、膝丈のブーツで寒さをごまかす。
一通り着替え終わると、見計らったように部屋の扉が開いた。
「怒られるとわかっているのなら、ちゃんとした格好をして頂戴」
むっとした顔をしたパールがそこには立っていた。
その目は、仮にも貴族なんだから、と語っているようだ。
「貴族は身なりじゃないと思うのよ。ちゃんとお仕事もしているし…」
「わかったわかった、もうその言葉は聞き飽きたから」
右手をひらひらさせながら言うと、パールはポケットから一枚の封筒を取り出した。
「“妹さん”、お手紙が届いてるわよ」
「!」
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