Épelons chance | ナノ
69.機と君と、起と君へ
月が明るい。
街頭なんてほとんどないこんな静かな場所なのに。
月明かりが足元を照らしてくれる。夜なのに、とても明るい。
見上げれば少しだけ欠けた月が雲に隠れることなく顔をさらけ出して、真上から世界を見守ってくれている。
満月の夜はもう過ぎた。
これからしばらく、欠けていくだけ。
どうしてだろう。
こんなに綺麗に月が見えるのに、星が一つも見えないのは、何故?
暗闇の中にポツリと浮かぶ月が、障気に紛れて寂しそうに光る。
星を求めて歩く。
一人で輝くのは寂しいから。
――寂しいの?
無の中にたったひとつ光輝を放つ存在は、寂しいと感じるの?
満月の夜は星が見えていたのかな。
これからしばらく、欠けていくだけ。
照らされた真砂の世界に視線を戻して、道を行く。一歩、また一歩、ゆっくり歩けばその度に砂が跡を残して音を鳴らした。
「やっぱりね。来ると思ってた」
ひとり外れて感じるのは寂寞じゃない。これは誰にもわからない。
でも、わたしが気持ちを代弁するのなら――
「待っている気がしたから」
――それは恐怖だ。
69.機と君と、起と君へ
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