Épelons chance | ナノ



16.Jade-side



襲撃を受けたタルタロスから逃げ出して、数日が経つ。

はぐれてしまったアニスはおそらくここ、セントビナーに来ているはずだ。何かがあったときの万が一を想定して、ジェイドとアニスは合流する場所を決めていたらしい。イオンと親書を狙う神託の盾に街は封鎖されており、兵士の目を掻い潜って門の中へ入ったはいいが、街中はなんともいえない妙な空気が流れていた。街の外と言えど目の前で勝手を振る舞う神託の盾騎士団に、マルクト軍はよく思っていないようで。マルクト軍からの威圧によって住民たちも神託の盾への視線を厳しくしているようだ。
さすがに外交問題に発展するのは困るのだろう、彼らが到着してしばらく経つと、神託の盾騎士団は引き上げて行った。

街の中で身を隠すことが出来たジェイドたちは、見えなくなった脅威に一息ついて胸を撫で下ろした。


「で、アニスはここにいるんだな」
「マルクト軍の基地で落ち合う約束です。……生きていればね」

笑顔で冗談にならない内容を告げ、揃った顔ぶれの怪訝を買う。胡散臭いものを見るように、ルークから半開きの瞳を向けられても彼は眉ひとつピクリともさせずににこやかなままだ。どんな視線だろうがジェイドは気にすることなく、基地はすぐそこですと指さして、さっさと向かうようほのめかした。


「うわッ!」


ドス、と鈍い衣擦れ音が掠れて、ルークが一歩後ずさる。
振り返った途端に、走っているマルクト兵とルークが勢いよくぶつかってしまった。

「ってぇ!どこ見てんだよ!」
「申し訳ない、急いでいたもので……」
「はぁ?」

瞳をぎらつかせるルークはその態度に怒りを覚えたのか、腕を組んで兵士を威圧する。

「謝るならもっと頭を下げろよな。誰に対し……むぐ!」

言いかけたルークの口を慌ててガイが後ろから塞ぎ、耳元で「ここはマルクトなんだぞ!」と焦りながら小さく叱声を飛ばした。その様子に対峙した兵士は不思議そうに首を傾げるが、ティアが隣で苦笑いをしながら「こちらも余所見をしていたんです。すみません」と頭を下げる。まだ慣れない身の在り方に、口を塞がれたルークは更に気分が悪そうに目を細めた。

「こちらのことはお構いなく。ところで、あなたは駐留軍ではありませんね。他所の兵士がこんな場所で何を?」
「は……!マルクト軍の方でしたか」

ジェイドが口を開くと、彼は軍服を見てすぐさま姿勢を伸ばし、敬礼した。

「事情があり、人の捜索をしております」
「…ああ、それで街の中で兵士が走り回ってるのか。あいつもあんたの仲間だろ?」
「そうです。お騒がせして申し訳ありません」

街中に目線をやったガイが軽く指でさす。ルークやティアもそちらへ顔をやると、大きくそびえるソイルの樹の向こう側に駆けて消えていく背中が見えた。よく見ると、街の中から神託の盾を睨んでいた常駐のマルクト兵よりも、彼らが身に着けている鎧は少しだけ軽装だ。
「それでは、自分も戻りますので」と兵士が一言添えると、彼は再び敬礼して家の立ち並ぶ住宅区の方へ走って行った。

「それじゃあ、改めて基地へ向かおうか」
「………」
「あなた、もう少し態度を改めた方がいいわよ。さっきの態度はただのならず者と同じだわ」
「うるせぇ!ぶつかってきたのはあっちだろうが!」
「ルーク、落ち着いてください。何か理由があったんですよ」

イオンに続いて、相当急いでいたのだから仕方がないだろう、となだめるようにガイが苦笑を混ぜて肩を叩く。そんなことよりも、と基地へ行く足を急かした。


「…大佐、どうかされましたか?」

背中を押されて無理やり前へ進められるルークを横目に、立ち止まったままのジェイドに気が付いてティアが顔を上げる。
かけられた声にすぐさま視線を戻すと、彼は微笑んで「いいえ。我々も行きましょう」と促した。彼女は足を進めながらもジェイドの視線の方角が気になって目で追うが、街の中は先ほどよりもとても静かだった。

 


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