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15.メトロノーム、されど







15.メトロノーム、されど











様々なものが散乱したこの部屋。まるで泥棒が入った後みたいに物が散らかっている。棚に納められるべき本は床に乱雑に放り出され、なぜか部屋に飾られた武器がそれを見下ろしている。どうやらこの部屋の主は武器マニアらしい。ただでさえ足の踏み場が少ない床には、ブゥブゥと鼻を鳴らしながら、のそのそと動き回るピンク色をしたブタの様なウサギが数匹。部屋の椅子に座る彼は、愛おしい眼差しで一匹のブウサギを抱え、手にブラシを持ってその毛並みを撫でていた。

「ミカルの話な。なんとか丸く収まったみたいだ」

その毛を眺めながら口は動く。
その様子を見つめる軍人は、手を後ろに回して直立している。

「そうですか。彼女に軍など似合いませんからね」

そうなることがわかっていたかのような目でブウサギを見据えて言った。

議会は先日の報告を受け、渋々ながらも身を引かざるをえなかった。それもそのはず、ミカルは負傷者を癒すどころか自身が傷つき、挙句数日に渡り寝込んでしまうという、何の実績もあげなければ足で纏にしかならなかったからだ。彼女からしてみれば至極災難であった事件も、議会に報告する上ではとても有力なものとなっていた。図らずしも起こった出来事にピオニーはミカルを心配こそすれど、胸を撫で下ろしたのも事実である。


「で、どうしたんだ?」

ようやくブウサギを床へ下ろした皇帝は、身体を向き直して眼鏡の向こうに佇む瞳を捉えて言った。解放されたブウサギはどこかへ行くことなく、尚もピオニーの周りを徘徊し、たまに頭を足へ摺り寄せる。

「ミカルの件で、ひとつ提案があります」

ブゥブゥと走り回るブウサギは、時たま壁に激突したり棚に激突したりを繰り返す。その拍子にその上に乗っているものが落ちたりと、この部屋は静かになることがないようだ。

「譜術を覚えさせてはいかがでしょうか」
「ほう、なんでだ」
「彼女には少なからず需要があります。少し覚えるだけでも身を護れるようにはなるでしょう」

先日の件で一番責任を感じていたのはジェイドだった。

「…必要ないとも思うがな。前のような事はもう起こらない」
「軍事だけではありませんよ。彼女は他の街へ行くこともありますから」

兵をつけていても、似た局面になれば同じことが起こらないとは言い切れない、とジェイドは言う。ミカルは、ピオニーや他貴族院の遣いで別の街へ行くこともしばしばある。彼はその時のことを心配しているようだ。

「そうだな…まあ確かに、護身術だけでも身につけておけば、不安も減るか…」
「決まりですね。ではミカルにはわたしから直接指導させていただきます」

その言葉にピオニーは目を丸くした。

「珍しいな。お前が自分で面倒見るなんて」
「他の者では見れる範囲が限られているというだけですよ」

眉尻を下げて目を閉じ、仕方がないといわんばかりに笑うジェイド。

しかしピオニーの目は、その姿を嬉しそうと捉えるのだった。



 


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