Épelons chance | ナノ



14.音の鳴る息吹


森に入ってしばらくすると、倒れた兵隊を見つける。声をかけても返答がない。
周囲には譜術を使った痕跡がいくつか残されていて、同様に魔物の爪痕らしきものもあった。

そこから少し進むと、先に突入した小隊が魔物と戦っているのを確認する。そこには幾人もの人間が倒れていて、息のない者もいれば呻き声を上げている者もいる。全員が致命傷というわけではないようだ。荒々しい呼吸音が木霊している。


「―何があった!」


ジェイドが見据える景色には、苦戦している様子は見受けられない。残っている魔物も数匹。
声に反応して一人がこちらへ駆けてくる。

「魔物により奇襲を受けました!数は二十余り、すべてライガです」
「ライガ…?その程度でここまで崩れたのか?」
「いえ、大量のライガを引き連れる大型の魔物により一小隊はほぼ壊滅。指揮官の命により譜業兵器の使役後、魔物は北へ逃げていった模様です」
「…ここに残っている魔物はそれの残りですか」

ジェイドは後から入った援軍の兵に指示を送る。傷を負った者の手当、周囲の魔物の始末、そして撤退の命を出した。

「魔物は追いますか?」

一兵士が言う。
ジェイドは眼鏡を押し上げて、少し考えるようにして答えた。

「…いえ、深追いは危険です。北へ逃げたということであれば、森も深くなる…魔物も強力になるでしょう。一旦引き返し、上へ報告します」
「了解!」












14.音の鳴る息吹











隊を先導するのはジェイド。負傷兵を引き連れている以上、あまり速度を上げるわけにもいかない。彼の頭を過ぎるのは森入口へ置いてきた貴族。

(…陛下に怒られてしまいますね)

彼はこの演習へ出てくる前、ピオニーより直々に頼み事をされていた。


『ミカルの傍を離れず守ってやってくれ』


彼はほとほと過保護だ。しかし、それを拒むこともなく素直に受け入れた自分もまた過保護だというのはわかっていた。故に、この道中珍しく焦ってしまう。顔には出さないものの、どうにも足が速く進もうとして困る。結局のところ、ここに連れてきたのは自分なのだから、その足取りには自責の念もあったのかもしれないが。


木々の合間から漏れる光が段々と大きくなってくる。目に映る範囲に森の出口が見えてきた。しかし、どうにも異様な気配を感じた。
少し先から聞こえるのは刃物と刃物がぶつかる音。それと同時に人の声も聞こえてくる。

ジェイドは嫌な予感がする前に走り出した。

――そして


「だめ――――――――ッッ!!」


 


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