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10.授かりし赤きはその証明と



「自分に素直になって、その気持ちに従えばいいじゃない」

ふんわりと笑った彼女は、そっとミカルの手をとった。










10.授かりし赤きはその証明と











ミカルは、目の前で白い歯を見せて笑う皇帝に、目を丸くしたまま動かないでいた。

それもそのはず、一緒に暮らすだなんて、それだけではまるでプロポーズにもとれる言葉。しかしミカルには、それがそう言った意味合いをもった言葉ではないことはわかっていた。彼の目はミカルを捉えていて、慈しむ様に優しい微笑みを送る。だがそれは、簡単に言葉にはできないような深い愛情を纏っていた。


「ちと言い方が悪かったかもな」

ミカルはまだ口を閉じたまま、ピオニーを見つめる。
こほん、と声に出してひとつ咳をすると、少しだけその顔つきが変わる。

「俺は皇帝として、ミカル・ティアーニへ誠実な公務態度とその実績を評し、それに伴った対価を支払わなければならない」
「へ…?」
「上とも話し合った結果、お前には今までの功績を讃え、土地を授ける許可が出た」
「え、あ あの…」
「俺が今まで知らなかったと思うなよ?お前が無意味に他の奴の為に動き回ってたことぐらいお見通しだ」

ずっと笑って話していたピオニーは、話を切り出してたじろぐミカルを睨んで言った。

「そういうのはな、お前にも相手にもいい結果は生まないんだよ」

珍しく怒られている。その言葉がわからないわけでもなく、まっすぐにミカルを見るピオニーの瞳から目をはずした。

「ネフリーなんか、心配して何度も鳥を飛ばしてきたぞ。それをジェイドに見つかっちまうし、しまいにゃ俺が怒られるし」
「ご…ごめんなさい…」
「親父がやってる時代は私情じゃ手が入れられなかったけどな。即位して1年、ようやく口を挟むことができたよ」

馬鹿野郎が、と言ってミカルの頭を小突く。

「…でも、別に嫌でしてたわけじゃないですし…たまにある外へのお話は、旅行もできて楽しかったし…」
「だから、やるならやるできっちり自分の名前を使えよ。お前貴族なんだぞ?他のやつに華だけ持たせてお前は満足かもしれないけどな、それじゃあお前の名前は誰も評価なんてしちゃくれねぇ。見てないやつからしたら、名前にあぐらかいてぐうたら過ごしてるようなもんと同じなんだ」
「……」

聞けば聞くほど耳が痛いだけで、何も言えなくなってしまう。俯いてしまったその顔では、今ピオニーがどんな表情をしているのかすらわからない。
震える声色は、怒っているのか、それとも悲しんでいるのか。


「ミカル…お前、名前を継いでることに後悔とかしてるのか」


ぽつり、その言葉は、何よりも深く胸の奥をつついた。

 


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