Épelons chance | ナノ



43.水槽の絵画













43.水槽の絵画











「……?ガイ…?」



宿から出て行く影が見えた。
こんな真っ暗な中、物音を立てずに出て行く姿は妙なものだ。ルークは、その姿が別な人間のものだと思いたくて疑問げに口にするも、彼の金髪は暗闇でもわかりやすく色を染めた。反対側から戻ってきたため彼はこちらには気がつかず、そのまま夜の街へと姿を消していった。


「…追わないの?」


先ほどまで俯いていたミカルが、いつの間にかこちらを見ていた。心中を見透かすような瞳は、まるで疑うことをよしとしているような、そんな圧力があった。
ここはヴァンが潜伏している街。そして彼は――ガイラルディア・ガランは、ヴァンの主人であった人間。ホド消滅の復讐を誓い合った者同士が、再びこの街で繋がろうとしている。そう考えるのは容易なことだった。

「……俺は、ガイを信じる。そう言ったから」

ガイの後ろ姿を追うように顔をそちらへ向けると、疑いではない、真っ直ぐな瞳で言った。

「ガイと師匠は確かに同志だった。…でも、ガイはもう、師匠とは目的が違っちまったって…。そう話してくれたから、俺はそれを信じるだけだ」

ミカルがいない間に色々と話をしたのだろう。あの状況で何も突っ込まれない方が、この旅の面子上不可解な話だ。
澄んだ瞳はゆっくりとミカルの方へ向き、にこりと微笑むと「さ、もう寝ようぜ」と彼女の腕に触れた。わずかに湿ったグローブの感覚に、それでも彼が不安を持っていることをミカルは読み取ってしまう。


(…信じるとか、信じないだとか)

触れた部分を反対の手で握って、先に宿へ入っていく赤い髪を見送る。

(よく……わからない……)

きゅっと目を瞑ると、何も見えなくなってしまう。苦しい時に思い描いていた顔は靄がかかり、いつも傍に居てくれた人は隣にいない。誰を信じていいのか、それとも誰かを信じることがいけないのか。
ルークが信じると言った理由がわからない。最も近くにいた師に裏切られ、いつも一緒だった親友はその同志だと明らかになったのに。

哀しみと怒りと、頭は混乱に満ちて、ミカルはふらりと闇の街へ足を運ぶ。
それは、先程“仲間”が消えていった方へ――


■skit:こっそりとお出かけ

 


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