Épelons chance | ナノ



31.冷たいクリームシチュー













31.冷たいクリームシチュー
















「ただいまー……」


ギィ…と開く扉。返ってくる声はなく、真っ暗な部屋に自分の声が反響して戻ってくるだけだ。
誰もいるはずがないか、と足を踏み入れると、懐かしい香りがした。グランコクマに行ってから一度も帰ってきたことがないのだ。ずいぶんと久しぶりになる。それでも部屋に埃は舞っていないし、ずいぶんと片付けられている。広間に置かれたテーブルも、椅子も、家具も、何から何まで、新品とは言えないが綺麗に維持されている。


「パール、本当にお掃除してくれてるんだ…」

その名は、自身が小さい頃から勤めてくれたメイドであり、唯一歳の近しい友人。久しぶりに会いたい気もするが、彼女が今どこで何をしているのかもわからない。そもそも、突然押しかけるのも気が引ける。
ミカルは階段を上がった先にある自分の部屋の扉を開けると、そこにもまた懐かしい香りが残っていた。使っていたベッドも、その隣の棚も、机も、全てあの頃のままだ。ベッドに腰をかけると、ギシ、と音を立てて羽毛が沈みだす。ふかふかとした触感の布団は、何度も陽に当てられているようで暖かい香りがする。
鼻をつけて匂いを嗅いで、懐かしさと愛おしさに目を瞑った。

冷え切った空気も、真っ暗な部屋も、窓から差し込む光も、全てが昔と変わらない。


「グランコクマへ行ってから、お仕事で必死になって、毎日忙しくて。お遣いに出たら巻き込まれて旅が始まって。キムラスカにまで行ってしまったし、まさか地下の世界にまで……こんなことになるなんて、あの頃はまったく思ってなかったわね…」


それに、こんな形で再びここに戻るとも。


ベッドの上で瞳を閉じれば、いつしか考えるのもやめて、意識は遠のいた――

 


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