Épelons chance | ナノ



30.微を上げて総させて





「追っ手は来ないみたいだな」


うまく逃げ延びて、ダアトが見渡せる丘の上までやってきた。振り返り、ダアトの街並みを見やってガイが言うと、ティアは「公の場で、イオン様を拉致するような真似はできないのだと思うわ」と言う。

「大詠師モース…本当に戦争を起こそうとしているなんて…」

伏せた瞳には戸惑いが見受けられる。
教会に乗り込んだ際、モースとリグレットが「やっと戦争が起こせる」と話をしていたのを聞いてしまったのだ。そのどちらへも敬意を持っていたティアにとっては、心を揺らさずにはいられなかった。ルークは彼女の前で心配そうに視線を向ける。

「ティア、俺はティアを信じてるから。戦争なんて絶対に起こさせるもんか」
「…ルーク……」

まっすぐ彼女に向かって言うルークの目は、しっかりとその瞳を見つめていた。意志のこもった瞳。
再会してからの彼は、なんだか雰囲気がガラリと変わった気がする。ミカルはそんなことを思いながら、二人を見つめていた。


「にしても〜。またこの面子が揃ったね」

アニスが言った。「成り行き上ではありますけどね」とジェイドが言うと、イオンもふわりと笑って言う。

「これもローレライの導きなのでしょうか」
「そうですわね。ユリアの預言に関わる者、各国の重要な立場の人間…。偶然ではないような気もいたしますわ」
「これも預言に記されていたりするのかな」

ガイの意図せず放った呟きに、ミカルはびくりと反応する。それには気づかず、アニスは「そうかもだねー」と一言返した。

「それにしても…ルーク。髪を切ったせいでしょうか。随分雰囲気が違いますわね」
「そ、そうか?」

彼を見て、顔を柔らかくさせたナタリアに、ルークは振り向く。

「あなたなりに、色々思うところがあったのかもしれませんね。まあ、今更という気もしますが」
「人の性格なんて一朝一夕には変わらないもんねぇ」

ジェイドとアニスの発言にルークは言葉を詰まらせる。その様子に、ミカルは小さく息を吐き出した。彼らに一言言おうとした時、イオンが横から「アニス、ジェイド。僕はあなたたちの言っていることに素直に頷けませんね」と一歩進み出て口を開いた。

「ルークは元々とても優しかった。ただ、それを表に出す方法をよく知らなかったのです」

イオンがそう言ってルークに微笑むと、ルークは恥ずかしそうに頬を赤らめた。確かにぶっきらぼうではあるが、ジェイドの説教に介入してくれたり、不器用に心配をしてくれることなど、彼の“優しさ”の片鱗はミカルも幾度も味わっているものだった。イオンの言葉に頷いていると、ルークと目が合う。

「その、ミカル」

ルークはゆっくりとミカルに近づくと、照れて赤くなった頬を隠すように頭を掻きながら話しかける。

「タルタロスでは…その、ごめんな。いや、それ以前も!ミカルが言ってくれたこと、今なら理解できてるつもり、だよ」

しっかりと混じり合う視線は、今までに見たことのない彼の気持ちを伝えてくれるようだった。
言葉はなく、ただ、湧き上がった感情を全て微笑みに託すと、彼もまた、同じように微笑んだ。









30.微を上げて総させて







 


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