Épelons chance | ナノ



12.Comme un ami




水の都。

そんな言葉が似合う街、グランコクマ。


水路を駆けるのは街の象徴。こちらではすっかりその姿を見せている太陽が光を与えて、キラキラと反射する姿が美しい。少し奥に目をやれば、まるで壁のように流れる水が街全体を守っているようだ。“水上の帝都”なんて呼ばれているが、確かに的を得ている。不規則に流れる水は空中に七色のアーチを生み出す。

こんなに太陽がサンサンと降り注ぐ日でも、水気に覆われたここは自然な涼しさで。

その景色が綺麗であれば綺麗である程、ケテルブルクへの想いが薄れてしまうようで、ミカルは少し怖かった。


街並みを歩きそのまま道なりに進めば、目に映るのは大きな大きな宮殿。
敷き詰められた石畳に靴を鳴らせば、宮殿の後ろには一際大きな虹がかかっている光景が目に映る。

右にピオニー、左にジェイドを携えて門前まで行くと、衛兵の視線が痛い。兜に覆われたそれをこちらから確認することはできないが、間違いなく凝視されている。その雰囲気に、ミカルは両隣がすごい人間だということを思い出す。宮の中を歩いても、道中同じように幾度となく視線を送られる。「お疲れさまです」と会釈をする兵士にも、「お帰りなさいませ」と頭を下げるメイドにも、行った後に後ろに突き刺さる様な視線が注がれる。


青い扉の前に立つと、ピオニーがミカルの背中を押す。

「ここがお前の部屋だ。好きに使うといい」

扉を開くと、テーブルや棚等の必要家具類がすべて揃えられている。その視線の先にはもう一つの扉。あちらは寝室だろうか。
しかし、ミカルが目をつけたのはそんな日常的なものではなく、テーブルの上に置かれた大量の紙。

「…?」

山積みになっている一番上をとって目を通すと、どうやらそれは軍事書類であるようだ。

「あなたのお仕事ですよ」

背中から嬉しそうな声が聴こえる。
振り返ると、にっこり笑ったジェイドが扉を閉めながらこちらを見据えている。

「仕事…?わたしに軍人になれということなのでしょうか?」
「そういうわけではありませんが、わたしの下につくという事はそれなりにお勉強していただかないといけません」
「ジェイドの?下に??」

まるで話のいきさつが見えない。どういうことなのだろうか。耐え切れずにピオニーへ視線をやると、彼は「すまん」と眉をハの字にして笑った。

「わたしが申し出たのですよ。陛下はあなたの処遇を決めておられなかったようですので」
「馬鹿言うな!俺が考えてる横でミカルをくれって言ったのはお前だろう!」
「どういう…ことですか?」
「ミカルには今後、わたしの雑務係として働いてもらいます。いやぁ、最近仕事が増えてきたのでありがたいです」

そのためにまずは軍の規則等頭に入れてくださいね、と笑顔で紙の山に手をかざす。有無を言わさぬ圧迫感は、さすがの中佐殿と言えよう。
ミカルが頷いたのを確認すると、ジェイドは部屋を出て行った。執務室へは後ほど案内すると残して。



「…なんか、すまん」

ジェイドがいなくなった直後に、ピオニーが珍しくしおらしい声を出す。なにがですかと尋ねると、ため息をつきながら続けた。

「本来は俺がついててやりたいんだが、そういうわけにもいかなくてな…」
「何を仰るんですピオニー様。このような待遇をお受け出来て、わたしはこれ以上ないほど幸せです」
「…そうか。何か困ったことがあったらすぐに俺に頼ってくれな」
「はい、ありがとうございます」
「それより、あいつの仕事は荒いからな。倒れない程度にがんばれよ」

その言葉を聞いて、背筋に悪寒が走る。なんとなく予想が出来る分恐ろしい気がした。
そんなミカルを見てピオニーは笑う。


(…ま、あいつの傍にいれば安心できるからな)

結局ジェイドは、自分の気持ちも理解してくれた上で手を差し伸べてくれたんだろう。どこまで人の心が見えているのか…お節介な野郎だ、と内心思う。そんなことを思っていたって、結局感謝していることに変わりはないのだから。

 


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