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75.亡く無く言葉は届かない



逃げるように場を後にしたミカルは会議室までの廊下を戻る。落ち着き始めた頭で依然ルークのことを考えながら歩いていると、上方に青い軍服姿が目に入った。微動だにしない背中もまた、何かを考えているのだろうか。その姿を見上げて一呼吸すると、ミカルは近くにある階段へ足の向き先を変えた。



「ジェイド」

足音が響いている所為か、彼は声をかける前にこちらに気が付いて顔を向けた。はい、とだけ返された声色はいつもとなんら変わらない。しかし彼が見ていた先に会議室の扉を見つけて、彼も彼なりの想いがあることを知った。


「自分の発言に悩みを見せるなんて……あなたらしくないですよ」

皮肉気味に苦笑したが、彼はその言葉に笑顔を返すことなく視線を戻した。

「ルークがレプリカと心中しても、能力の安定した被験者が残る。障気は消え、食扶持を荒らすレプリカも数が減る」
「……」
「いいことずくめだ」

淡々と述べる横顔に、怒りは湧いてこない。自嘲して笑うことすらできない彼の姿を見るのは、ミカルは初めてだった。
苦しくなる胸の内を抑え込んで、痛々しく会議室を見つめるジェイドへ口を開く。

「あなたの言葉でなくてもよかったはずよ。権力者はあの場に三人もいた。……そんなに自分を追い詰めることないのに」
「慰めようとしてくれてますか?」
「非難してるんです。馬鹿」

ミカルはジェイドの隣に並び、共に目線を会議室へ向けた。
横へついた小さな頭を見て、ジェイドは苦しそうに笑いながら小声で呟く。

「……非難されるのであれば、もっと別の部分を非難してもらった方が気が楽でしたね」

彼も彼なりに、想いを持って。
最悪の最善策を提示した自身の行動を、まさかこんな形で諌められるとは思いもしなかっただろう。それこそ、ガイのように怒りを向けられた方が一般的だ。

(自分を一番責めてる人を……誰が非難できるのよ)

彼が権力者であれば、きっとルークに『死ね』と告げただろう。ジェイドはそういう男だ。それでも毅然とした態度でいられない様は、仲間として――友人として、それを止めたいと足掻いている証拠だ。頭の回転が早い彼は、理性を保って感情を置き去りにしながら言葉を紡ぐ。そんな不器用な生き方を、ミカルは何年も隣で見てきた。

「……ルークはきっと、あなたを恨んだりしないわ」
「そうでしょうか。……いえ、これはわたしのエゴですね」

ふ、と息を吐いた刹那、静かな教会内に妙なざわつき声が響いた。

「……何でしょうか?」
「礼拝堂の方ですね。行ってみましょう」



 


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