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75.亡く無く言葉は届かない



「そこまでな」


コツ、と床の鳴る音と同時に響いた声へ二人が顔を向けると、不機嫌そうに目を細めているガイが立っていた。
感情のままに発した言葉を遮られて、視線が合った途端にミカルは少しだけ我に返る。それ以上言わせない、と、まるで瞳が語っていた。

「……あなたには生きていて欲しい。世界中に残ったレプリカたちの希望でもある」
「ミカル……」
「それでなくても、ルークを必要としている人はたくさんいるわ。何かに引け目を感じて自分が代わろうとしているのなら、それは間違ってる」

ミカルはゆっくりと近づいて、ルークの手を握りしめた。祈るように目を瞑り、彼の温かさを確認するかの如く。握られた手を見て俯いたルークもまた目を瞑り、彼女の耳に微かに届く声で「ごめん……」と再び呟いた。その謝罪は何に対するものなのか。自身の発言でミカルの気を害したことへの謝罪か、何を言われたところで答えを変える気がないことへの謝罪か――どちらにしても、彼女からしてみれば欲しくない言葉だということは本人にはわからないのだろう。

「……もっと、自信を持って」

そう言い残すと、ミカルは手を離して小走りに駆けて行った。終始を見ていたガイの横を素通りし、目を合わすこともなくその場を離れていく。彼女の駆けていく足音だけが、反響して残った。


「……はは、ミカルに怒られちまった」

振り返ったルークは、ぎこちない笑みを浮かべて握られていた腕で頭を掻いた。

「当たり前だ。俺だって認めてないからな」
「ガイ……」
「お前はまだ七年しか生きてない。たった七年で悟ったような口を利くな!」

怒鳴られたルークは怯み、それでも言葉を返そうと声を出しかけたが、ガイはそれを遮って「石にしがみついてでも生きることを考えろ!」と叫んだ。

「……だけど、障気はどうにもならないんだろ?」

ルークは、ぐ、と抑えるように拳を強く握って、言葉を出した。ミカルと話した時とは違う震え方に、自分の弱さを感じる。
彼女が言う通り、別に方法があるかもしれない。でもそれは今ではないのだ。これ以上放っておけないのは、もうきっと、誰もがわかっていることだから。

「俺だって……死にたくないけど……」

震える声色で小さく本音を口にした直後、ガイはそんな声をかき消してしまう勢いで声を荒げた。


「だったら!障気なんてほっとけ!」


驚きに目を見開いたルークは、言って背を向けた親友を見つめた。

「ガイ……」
「……悪い。そんな風に簡単に言える問題じゃないんだよな。それがわかるぐらい、お前も成長したってことだもんな」

歯がゆそうに食いしばって言う彼の肩はやや揺れて、苦汁を呑みながらぐっと目を瞑る。

「だけど俺は……お前に生きていて欲しいよ。誰がなんて言ってもな」

ガイも、ミカルも、頭ではわかっている。これ以上障気を放置するわけにはいかないことも、打つ手がなく、どうしようもないことも。
それでも感情を優先して彼に伝えたい言葉は山ほどあって、不器用に、彼を困らせてしまうだけだとわかっていても。

 


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