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75.亡く無く言葉は届かない



アッシュと共に行動する漆黒の翼から彼の行先がダアトだと聞き、一行は急ぎ足で教会まで飛んだ。

ダアトでは既に各国の首脳が集結し、会議が開始されていた。話を通して部屋へ入ると、インゴベルト六世、ピオニー九世、テオドーロ市長の三人は揃えて顔を向け、ピオニーが「お前たちか!」と声を上げる。その手には一枚の紙が握られており、手元には粗末な封筒も置かれていた。

「今、アッシュからの手紙を見ていたところだ」

手紙、と聞いて仲間たちに疑問が走る。
聞けば、アッシュ本人はローレライの宝珠を探す為にこの教会からセフィロトに向かったそうだ。ということは、ここにまた戻ってくるだろう。

「手紙にはなんて?」

ピオニーの手の中に視線を移してナタリアは口早に問う。広げなおした手紙に書かれていたことは、『障気を中和する方法を発見した。それに伴ってレプリカに協力を依頼する代わりに、彼らの保護をしろ』という、簡潔かつ的確な指示に近いものだった。それを聞いて、ルークの顔に影が落ちる。

「あいつ……自分が死ぬことは書いてないんだな」

彼らが今一番重要視している事柄が、一切書かれていない。苦く顰めた表情を見た首脳陣はその声に眉をひそめ、どういうことだ、と手紙を伏せた。









75.亡く無く言葉は届かない









「アッシュは何を考えているのだ。何千というレプリカと共に心中するとは!」

全てを話し終えると、テオドーロが憤慨して声を荒げた。怒りに答えを急かすように、アニスが「当然、許可しませんよね?そんなの駄目ですよね?」と上下に腕を振る。

「レプリカとはいえ、それだけの命を容易く消費する訳にはいかん……。しかし……」
「お父様!しかしではありませんわ!」

頭を捻るインゴベルトの顔は険しい。障気の問題はそれほどまでに深刻であり、目をつぶるわけにはいかない声がたくさん出ている現状だ。対処法があるのであればすぐにでも実行したい。だが、命を浪費して命を守るなどという行為が許されるわけがない。揺れるのは当たり前でも、今ルークたちはそんな言葉を聞きたくはなかった。
結論を出すには許されざる代償に首脳陣は渋るばかりだ。そんな中、話し合いで誰よりも最善策を考案し発言してきた男が口を噤んでいる。彼の表情に気が付いたピオニーは、顔を上げて口を開いた。

「……ジェイド。お前は何も言わないのか?」

首脳陣の前に立った彼に、仲間たちの目が向けられた。姿勢よく立つ彼の背中は微動だにせずそれを受け止めて、部屋の中は静まりかえる。


「わたしは……もっと残酷な答えしか言えませんから」


落ち着いた声は会議室の刻を止め、重苦しい空気に促されて焔色の髪が揺れた。



「……俺か?ジェイド」



 


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