Épelons chance | ナノ



71.アリアは歌い、眠る




無作為に生え並んだ樹がぽっかりと空洞を作った場所へ、宿敵同士が顔を合わせた。鋭い眼光が映し出すのは互いの姿のみで、どちらも引けを取ることなく胸を張る。焦りも迷いもない呼吸がまた、木々の静けさを誇張させていた。
アリエッタはいつもとは違う装束を羽織り、全体的に白く、まさに決戦の礼装と思わせる佇まいをしている。かぶっている帽子も普段とは違い、それはイオンのかぶっていたものと酷似していた。耳の隣で揺れる飾りが懐かしく感じる。弔い合戦をするという意向を、一目見ただけでわかるように。


「アリエッタ。あなたはわたくしたちを助けてくれたこともありましたわ。話し合えませんの?」
「アレはイオン様を助けるため。でもイオン様は死んじゃった」

ナタリアが苦しげな表情で口を開いたが一蹴され、彼女はアニス以外の仲間たちにも目を向けて続けた。

「おまえたちはママの仇。アニスはイオン様の仇!ヴァン総長の為にも、おまえたちを倒す!です!」
「……自分は虫も殺さないようなこと言わないでよ。ヴァン総長の命令でタルタロスのみんなを殺したくせに!」

アニスは叫んでぬいぐるみを腕の中に抱え込んだ。声を上げれば上げるほど、高揚する胸の熱が空間に亀裂を走らせていく。


「アリエッタは魔物二匹と共に戦う。お前たちはアニスを含めて、同じく三人だけ武器を取れ」


決闘にはルールが必要だからな、とアリエッタの背後で仁王立ちをしているラルゴから声が投げられた。
ライガを右に、フレスベルグを左に、皆と対峙した二匹の魔物はアリエッタの気に高ぶられたように威嚇体制に入る。獣の唸り声が響く緑園の中、ルークが一歩進み出た。

「お前がアニスを責めるんなら、俺たちが味方になる」
「ルーク…」

ルークは勇んで腰から剣を抜き、アニスの隣へ立ち並んだ。「さて、あと一人はどうする?」とラルゴが低い声で問いかけると、仲間たちが目配せして顔を見合わせる。しかしその行為の最中、何の前触れもなくアニスの隣に足は運ばれた。


「――ミカル…」


肩を並べた姿に皆の視線が止まる。彼女の目線にアニスも驚きを隠せぬ様子で、大きく瞬きを繰り返した。

「…言ったでしょう?覚悟を決めたって」

緩く、小さく微笑むと、ミカルは前を見据える。
決して交わらぬ未来の為にアニスが血で手を染めるというのならば、その罪を一緒に背負おうと思った。一人で責任に潰させたりはしない、ただそう心に誓って。

「イオン様を止めることができなかったのは、わたしたちの責任でもある。だからアニスを仇だと言うなら……わたしだって同じだわ」

アリエッタに託された『助けて』という声を叶えてあげることができなかった。火山の手前で、イオンに会うことはできたのに。


「………ミカル…」


鮮やかな桃色の瞳に映るミカルの姿も、もう彼女の目に以前のような慈しみの情は塗られていない。全ては『イオン』から始まり、『イオン』にて終わりを告げようとする少女の瞳は、燃えているはずなのにとても悲しそうな色をしているように感じた。

強い眼差しで迷いも躊躇いもすべて吹き飛ばし、ミカルも腕を構える。イオンやヴァンの指示ではない、彼女にとって初めて自分の意思で選択した道がこの決闘だ。真剣に、まっすぐに、真っ向から受けて立つべきだ。小さな気の迷いも拭いとって、ただ一心に前を向いた。


「アリエッタ!あんたの恨み、全部飲み込んであげるよ!」
「……アニス、覚悟!」


 


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