Épelons chance | ナノ



46.徐と往くライオン






歩み続けた道も途切れ、この渓谷の最奥であろう場所にセフィロトの扉を発見した。

イオンが言ったとおりまだ解呪されておらず、不思議な文様が光を放っていた。イオンが歩み出て目を閉じる。音素の纏った手を封印にかざすと譜陣が現れ、扉はさらに強い光を放って音を立てて消え去った。同時にイオンは立ち眩み、倒れそうになる身体をアニスが支える。

「イオン様、大丈夫ですか?」
「…ええ、ちょっと疲れただけです」

アニスの腕から離れて笑顔を見せる。だがその顔色は青ざめていた。

「そういえばパッセージリングを起動させる時、ティアも疲れるみたいですわね。創世歴時代の音機関や譜術には、そういう作用でもあるのかしら」

ナタリアが心配そうな瞳で言うが、イオンは「そんなことはないと思いますが…」と首を捻った。








相変わらず、セフィロトの中は幾何学的な空間で満ちていた。

下を見ると飲み込まれてしまいそうな程奥深く、渦巻いている音素。白いもやがかかり、聰明に光を帯びている。不思議な文様が蠢く通路をひたすら歩いていくと、そこには既に見慣れてしまったパッセージリングが現れる。停止しているパッセージリングの台座にティアが近づくと、今までと同じようにティアの身体へ音素が流れ込んだ。そして操作盤が展開される。

「兄さんは、ここには来ていないのね…」

パッセージリングを大きく見上げ、暗号をかけられていない事を確認してティアが言った。
だが、シュレーの丘・ザオ遺跡のセフィロトで暗号を無視し超振動で強引な制御を行った結果、並列に繋がる各地のセフィロトは緊急停止してしまったようだ。無理やり起動させたせいで、ルークは侵入者と判断されてしまったらしい。今ここのセフィロトは操作盤が機能を停止してしまっている。

「まあ、ルークの超振動で、これまでと同じように、操作盤を削っていけば動くと思います」

操作盤を確認した後、ジェイドはルークの顔を見やった。

「力技って訳か。で、俺は何をしたらいいんだ?」
「振動周波数の計測には、何も。ですが、今後のことを考えると外殻降下の準備をしておいた方がいいでしょうね」
「なんか書けばいいんだろ?」

そう言ってルークは頭上に手をかざす。腕に意識を集中させて超振動を発動させると、ジェイドはその脇に立って指示をし始めた。
ゆっくり、的確に腕を動かすルークの額には汗が。程なく、下方から記憶粒子が発生して辺りは光の粒に包まれる。

「今書いたのって、なんて意味なんだ?」

ふう、と息を吐き出してルークが腕を降ろす。ティアは彼の隣に立ち、「ラジエイトゲートのパッセージリング降下と同時に、ここのパッセージリングも起動して降下しなさいって命令よ」と説明する。
外殻大地にある全てのパッセージリングに同じ命令を書き込んで、最後にラジエイトゲートのパッセージリングに降下を命じる。そうすれば、外殻大地を一斉に降下させることが出来る。セフィロト同士が繋がっているというアッシュの言葉で、ジェイドが考え出した案だった。

「あとは地核の振動周波数だな」
「大佐、どうやって計るんですかぁ?」

ルークが納得したところで、ガイが測定器を取り出した。「計測器を中央の譜石にあてて下さい」とその通りにすると、小さな音機関からポーン、と小さく音が響いた。


「…これだけか?」
「はい」

物足りなさ気な表情でガイがジェイドに振り向くと、彼はいつにもまして笑顔で応える。
アニスも「つまんなーい。なんか拍子抜けだよぉ」と両手のひらを上に向けて息を吐き出した。


「では、シェリダンへ戻りましょう」


イオンの穏やかな声がパッセージリング近くにあった音叉へ反響した。

 


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