Épelons chance | ナノ



34.変ずる姿勢に変わる視線


「ルークの奴、張り切ってるな」

別の場所で、人の誘導をするミカルの近くへ来て、ガイが赤い髪を指す。ナタリアとティアも、走り回るルークを見守っていた。

「ですわね。アクゼリュスでのことが嘘のよう。変わりましたのね、彼」
「動いていないと、アクゼリュスのことを思い出して不安になるのかもしれないわ」

喜ばしい顔つきで言うナタリアに対して、ティアは過去を思い返して呟く。ミカルは「そうかもしれないわね」と小さく返した。
やはり、不安にならずにはいられないのだろう。あの時とは状況が違うとはいえ、そのきっかけを作ったのは自分。そして、同じようなことが繰り返されようとしている。生々しくも脳裏に焼き付いた光景は、ルークだけではなく仲間たちにとってもまだ新しいものなのだ。

「それでもいいじゃないか。頑張ってるんならさ」

朗らかに言うガイに、ティアも嬉しそうに笑みを返した。
彼らも再び、街の人たちへ声をかけて回る。






街の隅々まで声をかけて回り、街の外へ誘導する。不安に駆られて転び、怪我をする人たちもいる。ミカルは治癒術を駆使しながら迅速に走り回っていた。さすがに人の波は尋常ではない量で、なかなかその作業も終わらない。泣き出す子供達もいれば、腰の抜けた老人は男手に背負ってもらうなど、避難は少々難行を強いられていた。なかなか息をつけない中で、皆右往左往しながら人々の手を引いている。


ミカルが老人の片手をとり街の外に用意された馬車へたどり着いた時、音素の乱れを身体が感じ取った。
それと共に、爆音と人のざわめきが立ち上る。



「何があったの!?」

急いで街の入口付近の騒動へ駆けるつけると、そこには譜術障壁を発動させるジェイドとティアの姿。上空から来る爆撃と衝撃を、辺りの住民へ被害をよこさぬようにと防御に徹しているようだった。ジェイドは駆けつけたミカルの姿を目にすると、苦い顔で上空へ視線を戻す。
次の瞬間、ミカルとジェイドの間に踏み入るように、どこからともなく譜業機械が舞い降りた。足が着いた衝撃で地面は揺れ、ぐらりと身体がよろめく。目の前に降り立った機械は、どこかで見た形状をしていて嫌な予感しかしない。


「ハーハッハッハ!ようやく見つけましたよ!」


騒々しい笑い声を引き下げて上空から現れたのは、もう珍しくはない眼鏡をした白髪の男。

「この忙しい時に…。昔からあなたは空気が読めませんでしたよねぇ」
「何とでも言いなさい!それより導師イオンとミカルを渡していただきます」
「断ります。それよりそこをどきなさい」
「へぇ?こんな虫けら共を助けようというんですか?ネビリム先生のことは諦めたくせに」

上から冷えた目つきで真紅の瞳を見据えると、ジェイドが珍しく言葉を飲み込むのが聞こえた。

「…お前はまだそんな馬鹿なことを!」

見上げた瞳に映された姿に、ジェイドは憤りの声を荒げる。しかし、その先の瞳も、負けじと怒りを露わにしているようだった。

「さっさと音を上げたあなたに、そんなことを言う資格はないっ!」

叫び、ふわりとこちら側へ降りると、譜業に隠れた向こう側で「ミカル!逃げなさい!」とジェイドの声が聴こえる。


「…ミカル。共に来ていただきますよ」

そう言った言葉は、今までとは全く違った声色をしていた。冷酷に笑う口元に、その瞳にはかつての温もりが感じられない。

「ディスト…。わたしをヴァンのところへ連れて行って、どうする気なの?」
「まだ連れては行きませんよ。その前に調べたいことがありますからね」

調べる、という言葉に、ミカルは耳を疑った。まるで自分を実験対象として見ているような言い方。以前会った時とは比べ物にならない口ぶりに、ミカルは動揺が隠せない。
彼の後ろでは譜業機械が暴れ、それに応戦する武器の音が響き渡る。住民を巻き込まない為なのか、ジェイドも大きな譜術は使えないようだ。

「……サフィール。あなたにとって、わたしはもう…」

俯きかけた瞳。近づく真っ白な腕に、その身が触れようとした瞬間。


「うぐっ!」

ディストは椅子ごと倒れこみ、その物音でミカルは再び顔をあげる。

「大丈夫か!?ミカル!」

大きな背中は、風を受けながら刀を握り締める。ガイ、と呟くのとディストが起き上がるのは同時だったか。
ディストの背後で、譜業機械が音を上げてその場に崩れ落ちた。急いで振り返ると、鉄の塊と化したそれに悲嘆の表情を向けると、機械の名前を呟き悲鳴をあげた。ワナワナと肩を揺らし、椅子に飛び乗って空へ舞い上がる。


「覚えてなさい!今度こそお前たちをギッタギタにしてやりますからねっ!」


捨て台詞を残し、遥か上空へ逃げ去っていく。
そんな姿にジェイドが追跡を指示した――その時だった。
 


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