Épelons chance | ナノ



19.静見繕う動



ルークがぼんやり目を開けると、そこは何かの台の上。円状に浮かんだ文字や図が浮かんでは消える。声のする方へ顔を傾けると、そこには仮面で顔を隠した深緑の少年がいた。少し下に目をやると、丸い眼鏡を光らせた白髪の男が操作盤をいじっていた。ルークは彼らを知っている。少し前にアニスと合流する予定で向かったセントビナーにて、彼らの姿を確認していた。動かない頭でも、すぐに彼らが六神将ということは思い出した。

「いいんですよ。もうこいつの同調フォンスロットは開きましたから」

白髪の男は操作していた手を止めて、椅子に座ったまま宙に浮かぶ。下方にいた彼は、そのままルークの近くまでやってきた。


「こいつはどうするのさ」

音機関の傍に立っていた深緑色の髪をした少年が言う。顎でその方向を指し示すと、ルークもそちらへ目をやった。そこには壁にもたれかけるように座るミカルの姿。彼女は力なく目を閉じている。ほんのわずかではあるが小さく胸が動いているのを見ると、どうやら眠っているだけのようだ。


「狙いは導師だろ。なんだってこんな女連れてきちゃったわけ?」
「アリエッタも気が回るのですよ!彼女にふさわしいのはあの陰険ではなく薔薇のように美しいこのわたしだと!!」
「…死神でしょ。何回も言わせないでよね」

白髪の男はキーッ!っと椅子の上で手足をばたつかせる。それに見向きもしない少年は、見えない仮面の上から死んだように眠る少女を見据える。

「シンク!ミカルを変な目で見るのはやめなさい!」
「…アンタと一緒にしないでよね。ボクはあんたと違ってこんなガキに興味ない」

シンクと呼ばれた少年はめんどくさそうに溜め息を吐いた。その言葉に目の前の男は更にバタバタとするが、彼は気に止めもしない。尚も作動する音機関の中で、ルークは身動きがとれずにただその状況を薄い目で見ていることしかできない。


「では、ミカルのことはシンクに頼みますよ」

話が一段落すると、唐突に白髪の男は口を開いた。

「は?アンタが連れていけばいいでしょ。なんでボクがそんな面倒なことしなくちゃいけないわけ?」
「わたしは早くこの情報の解析をしたいのです」

「失礼します」と告げると、そのまま飛び去って行ってしまった。怪訝な雰囲気を醸し出すシンクの顔をその瞳に映すことなく、彼の頭の中は手に持つデータでいっぱいのようだった。解析したいと言ったその眼鏡はキラリと光り、いつもだらしのなく笑う口元がさらに上がっていたことがその事実を決めつけていた。自分がこの女のことを話していた癖に結局優先するのは目先の興味心なのか、と彼は少し呆れながら、自分に押し付けられた状況に苛立ちを覚える。
渋々といった様子で眠り続ける少女の身体をその肩に持ち上げると、ルークに背を向けて歩き出す。ルークは動かすことができない身体に何度も何度も力を入れる。

「…お前ら一体…何を…」

振り絞ってその口を開くと、彼はさも興味のなさそうな目でルークを見た。最も、その表情を見ることはできないのだが。

「答える義理はないね」



シンクがルークに言葉を返した時、階段の向こうを恐ろしい速さで駆ける影が見えた。視界に金髪が映る。その影は音機関の上から飛び上がると、その勢いに任せてシンクに切りかかる。片腕にかかる重みにうまく動けなかったのか、ギリギリのところでその刃をかわすことは出来たもののよろけてしまった。その拍子に、懐から音譜盤が滑り落ちる。

「しまった!」

シンクに太刀を放ったガイは、その音譜盤を手にすると怪訝な顔を向けた。シンクは抱えた少女を乱暴に放ると、取り返そうとすぐに蹴りを放つ。しかしガイは華麗な動作でそれをかわすと、「大事なもんかい」と呟きその口に笑みを浮かべて懐へしまいこんだ。ギリ、と歯を噛み合わせると、シンクは更に攻撃を仕掛ける。ガイはそれを剣で受けると、そのまま刃先をシンクへ突き返した。刃は彼を覆う仮面をはじき飛ばす。

「…あれ…?お前…?」

カラカラと金属音を鳴らして床に転げ落ちる。ガイは露になったその素顔に目を開くと、シンクはその顔をすぐに片手で覆い隠す。

「ガイ!どうしたの!」

向こう側から足音と共にアニスの声が聞こえた。ガイはそちらへ気をそがれると、一瞬を見逃さぬようにガイの顔へその足を振り上げた。剣で防ぐも、不意をつかれて体制を崩し下の層へ落下する。足音の方へ目をやると、彼の仲間であろう者たちがこちらへ駆けてくる。

「くそ…他の奴らも追いついてきたか…!」

仮面を拾い上げ再びその顔に装着すると、先ほど放り投げたミカルの体を抱きかかえる。彼女はまだ眠ったままだ。

「今回の件は正規の任務じゃないんでね。この手でお前らを殺せないのは残念だけど、アリエッタに任せるよ。奴は人質と一緒に屋上にいる」

振り回されてゴクロウサマ、と冷ややかな笑みを浮かべてガイを見下すと、シンクはそのまま立ち去った。


「おい待て!ミカルをどうするつもりだ!!」


消えていく背中に問いかけるも、返答は帰ってこなかった。



 


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