猫になりたい【1】 「なんかくれる言うなら、もう夜遊びやめてや」 優しい表情で。穏やかな声色で、一舞が言った。 「…そんなんでええの?」 「うん。それが俺は一番嬉しい」 優しくも真剣な瞳で華を見つめながら、誕生日プレゼントとして、そんな風に要求されてしまったら、それはもう従うしか無いと彼女は思った。一舞がそれで喜んでくれるなら、そうしようと思った。 「わかった。夜に出歩くんやめるわ」 「ありがとう」 了解の返事を聞いた一舞は、嬉しそうに微笑んで華の頭を撫でた。 子供扱いされてるようでいて、でもそんな風には感じない。ただ温かい。その温かさが好きだと思った。大きなその暖かい手で撫でられて、華はようやく心から安心したのである。そして心地よさに目を閉じると、一舞の小さな笑い声が聞こえてきた。 「…なに?」 「ふふ…なんや猫みたいやな」 華が大人しく撫でられている事がどうにもツボだったらしく、嬉しそうでいて楽しそうでもある。 「猫て…だって安心するんやもん。もう猫でもええわ」 「そうか……そないに可愛いこと言うんやったら毎日撫で回したろ」 「頭だけにしといてや」 「ん〜…約束は出来んなぁ」 一舞の大きな手によって先ほどまでの色々な出来事が洗い流されていくようで、猫だとからかわれても反発する気など起きなかった。少し目を開けて彼を覗き見れば、それはそれは穏やかな表情で嬉しそうに微笑んでいる。 良かった。自分にもあげれる物があったんだ。そう感じて、華も嬉しくなった。 「さて…俺は家帰るで」 「…しゃーないから帰したるわ」 「ほう…添い寝はしてくれへんのん?」 「意味わからんし」 「ふはっ、なんや冷たいなぁ。はいはい。ほんならおやすみ」 おやすみの合図なのか、華に向かって投げキッスを1つ発射させ、彼は家に入っていく。 「またいらん事しよってから…」 せっかくちょっといい雰囲気だったのにと、いつものふざけた態度に飽きれつつも、とにかくその投げキッスをサッと回避して素直に自分の家へ。 風呂に入って、パジャマに着替えて、大人しく布団に潜り込むと、脳裏に蘇る今日の出来事。 (…ミドリどうしてるんやろ) 今日も結構歩き回ったが、ミドリにはとうとう会えなかった。やはり何かあったんだろうか。 自分に飽きただけなら何の心配もないけれど、ハルキという男のあのしつこさを知ってしまった以上、もしそこに何らかの関わりがあったのだとしたら…それはとても恐ろしい事に思えた。 だがミドリとは連絡もとれなし、一舞と約束した以上もう夜の街には出られない。 (明日ミドリに会いに行ってみようかな…夜遊びも卒業するて言わなアカンし…) とても…とても心配だが、心配事を脳内で繰り返し考えていても仕方がない。会いに行こう。そう決めて眠りについた。 +α☆top← Contents← Home← |