子供じゃないけど【2】



 華は中学生活3年目の春休みを迎えていた。

 見た目は多少大人びてきたものの、相変わらずの夜遊び三昧。

 既に働き始めていた一舞とすれ違いになることが多くなっても、受験をきっかけに仲間が減っていっても、一人でも友達がいる限り生活を変える気などなかったのである。



 春の陽気で肌寒さが去った頃のある夜。その頃よく一緒に遊んでいた”ミドリ”という他校の女友達と繁華街を彷徨いてた時だった。


「華やないかぁ!ひっさしぶりやなぁ!」


 声をかけてきたのは、いつぞやに華が想いを寄せていたハルキだった。

 一緒にいた当時は見た事もなかったスーツ姿で、誇らしげに距離を縮めてくるその笑顔を見て、華はウンザリといった様子で応えた。


「あぁ…誰や思たら、なんやハルキか。てか何?それ七五三か」

「あ?」


 ホストになった自分を自慢気にアピールしたかったようだが、華にとっては彼の存在など最早過去の汚点でしかなかったため、応対した言葉は若干攻撃的であった。


「ハルキあんた…どの面下げて声かけてきてん」


 華の態度を見て、事情を知っているミドリは庇うように前に出る。しかしハルキは、ミドリのことなどどうでもいいとばかりに撥ねつけるような言葉を投げつけた。


「あ?お前誰やったっけなぁ…ブスが馴れ馴れしいんじゃ。気安う名前呼ぶなや」

「なんやとコラ!」

「ミドリ。こんなん相手したらアカン。行こ。な?」


 ミドリは決して美人とまでは言えないかもしれないが、華とは対照的なエキゾチックな可愛らしさを持つ少女であった。自分に自信が無いわけでもないからこそ、こんな物言いをされて頭に血が上ったのである。

 このままではミドリがハルキに殴りかかりそうだと察した華は、早々にその場を去る判断をしたのだが、どちらもキツく睨み合った視線をなかなか逸らさない。


「…っお前!覚えとけよ!」

「………」


 互いの姿が見えなくならない限り、この睨み合いは終わらないだろうと考えた華は、ミドリの腕を引きながら用も無い方角へと路地を曲がる。彼女の吐いた捨て台詞にハルキが言葉を返すことも追いかけてくることも無かったが、華は嫌な予感がして堪らなかった。















 ハルキとの再会から数日が過ぎ、華は少々困っていた。

 いつも暇さえあれば一緒にいたミドリと、連絡が取れなくなっていたのである。

 電話をしても出ない事から、もしかしたら自分に飽きて別の子と遊んでいるのか、もしくは彼氏でもできたのか。心配ではあるが、夜遊び仲間というのはそんなものだとも思っていたから、あまりしつこくするのもどうか…とも考えていた。

 話したい事がそれなりにあるのに、こうなってしまってはどうしようも無い。隣の一舞もまだ帰っていない様子だし、とにかく1人はつまらない。だが家に居るよりはいいと思い直し、初めて単独で繁華街に出かけてみることにした。



 腕時計は深夜1時を過ぎて1人で彷徨くのも飽きてきた頃。再び仕事帰りのハルキに会ってしまった。


「なんや、今日は1人なんか」


 何がそんなに面白いのか、それともただ酔っているだけなのか、不快な微笑みを顔に張り付けて、これからどうしようかと考えあぐねてベンチに座っていた華の隣に腰かけた。


「はぁ…またアンタか。てかホストの仕事てこないに早う終わるん」

「今日は週頭やからな。客もまばらで暇やったんや」


 質問に答えながら、ハルキは未だヘラヘラと笑っている。


(気持ち悪いな…)


 とにかく不快だった。早くこの場から去ってしまいたかった。何よりこの男に対しての嫌悪が口から吐き出そうに胃がムカムカしていた。しかしハルキは立ち去る気配などなく、逃げようと座る位置をズラした華の傍へにじり寄ってくるのだ。


「なぁ華。お前今、男居んの?」

「…何やいきなり。アンタに関係ないやろ」

「つか俺らつき合うてたやんか」

「は?つき合うてたわけちゃうやん、何言うてるん?アンタおかしいで」

「そうやったかなぁ。ふははっ…なぁ。これから家来いや」

「!」


 何かわけのわからない事を言いだしたと、酔っ払いの戯言かと、顔を背けた。呆れて油断した。

 急に耳元で、酒臭く生暖かい息と共に囁かれた言葉が、華の全身を泡立たせた。



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