赤い髪と不良少女【1】



「ちょ待て待て、お前この家から何盗んできてん」


 関西にある小さな田舎。古い家屋が疎らに建ち並ぶその一角に、よく透る涼やかな声が響いた。

 台詞の内容のわりに怒気を含まないその声の主は、肩まで伸びた赤い髪をかき上げながら小さな溜息を吐く。


「あ?なんやお前」


 外に出るなり腕を掴まれてしまい不機嫌な様子を見せているのは、中学に上がって悪さを覚えたての生意気な小娘・華。

 自分の数十センチは上にある青年の顔に向かってキツイ視線を向けながら、掴まれた腕を振りほどこうとジタバタしている。しかし、振り解けない程度の力でホールドされた腕はビクともせず、舌打ちしたり少々唸ったりしながら、自由に動く手足まで使って逃げようとするなどまったく観念する気配も無い。

 赤い髪の青年はふと、自分の指を一本一本剥がそうとしている小さな手に目が留まる。そしてその手に握られた数枚の紙幣に気づいて呆れた声を発した。


「うわっ、お前金盗んだんか。とんでもないやっちゃな…こらアカンわ…見逃せへんな。ほれ行くで。サツんとこまで連行したるわ」

「はぁっ!?なんでや!わけわからんし!離せやアホ!サツの回しモンか気ぃ悪い!自分の家の物持ち出して何が悪いねん!」


 警察に連れて行かれるとあっては尚更このまま黙っているわけにはいかないとばかりに、大声で怒鳴り、更に暴れ出す。

 実は、毎日悪い仲間と遊びまわって家にもほとんど帰って居なかった彼女は、たまたま親の金をくすねるために戻っただけだった。それなのにまるで空き巣のような扱いを受けてまったく納得がいかない。


「はぁ?お前のウチやて?っしょーもない言い訳やな。ええかお前、たとえ親の金でもコッソリ持ち出しよったらそら泥棒や。あと言うとくけど俺はこの家の隣に住んどんねん。そないな言い訳通用するか。お前みたいなん見た事も無いで」

「やかましわ!お前こそ何言うてんねん!あたしのウチはあたしのウチやしたまにしか帰らへんだけやんか!お前なんか知らんてコッチの台詞やボケ!」

「なっまいきやなぁ…まぁええわ。ほんならな、ここがお前のウチやぁいう証拠見せろや」

「はぁ?」

「ほれ。見せてみろて」

「あーっ!ほんっま苛つくわ!ニヤニヤすんなシバくぞ変態!」

「おほ〜怖い怖い」



 結局、言い合いをする二人の騒ぎを聞きつけて、家の裏の畑に居た華の母親が駆け付けたことにより一件落着。

 華は家の中に連れ戻され、母親から平謝りされた青年は「ちょっと遊んでただけ」と言って何事もなかったかのようにしたのである。

 自然豊かな景色の中、一際目立つ赤い髪の彼は、まるで大型犬のような愛らしさも併せ持つ好青年。華は知らなかったが、目立つうえにとても人当たりの良い彼は近所ではなかなかの有名人であった。

 長らく空き家だった隣の家に最近引っ越してきた一家の一人なのだと母親から聞かされた華だったが、自分を泥棒扱いした彼の事がどうも気に入らない。


「俺、一舞いうねん。華ちゃんこれからよろしくな」


 一心地置いた頃。可愛らしい笑顔で握手を求められても、華は不機嫌に顔を背けるだけだった。



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