傷心11 ――――――side翔 透瑠はその後も、ドビュッシーを弾き続けた。だが俺は、解説をしてやれる余裕も無くて…。 一舞が泣く姿を見るのはもちろん初めてだ。 いつも辛そうなのを隠しているのはわかってたけど、それを他人に知られるのが嫌なんだろうとも思っていたし、あえて聞かずにきた。だから、こうやって涙を流すってことは、一舞にとってよっぽどキツい事が起きたんだろう…と思う。 少しして、ピアノの音が止んで、透瑠が、泣いている一舞を心配そうに見つめた。 俺たちはとにかく…一舞が泣き止むのを待っていたんだが…。 泣き止むどころかどんどんその激しさは増していくものだから、透瑠も俺も少し困っていた。 いつも平気な顔して、いつも他人のことばかり気にして、明るく…強く見せている一舞のその裏に、どんな痛みが詰まっているのか。 俺たちにはイメージも出来ないんだ…。 透瑠 「一舞ちゃんごめんね。透瑠くんは帰るけど、あまり悲しまないでね」 透瑠は、一舞の頭を軽く撫でて、そっと部屋を出て行った。 泣き続けている一舞を、俺もどうしていいかわからなくて…嗚咽に合わせて揺れる一舞の頭をほんの少し撫でてみた。 …気づいているのか、それとも、多少触れたことなんてどうでもいいのか…一舞は何も反応しない。ただ泣くだけ。 時々漏れる声は、少し苦しそうに思える。 俺は、居たたまれなくなって、小刻みに震える肩を引き寄せた。一瞬、一舞の体が反応したように思えたが、それ以上何のリアクションもない。 (…涼と会ってたはずなのにいったい何があったんだ?) こんなに泣く理由がまったくわからない…。 俺はとにかく、一舞を抱きしめるしか出来ずにいた。 Novel☆top← 書斎← Home← |