傷心9 藍原邸の、無駄に広い玄関フロアから続く幅の広い階段。 途中からその階段は左右に分かれていて、いつもは翔の部屋へ行くために左にしか上がらない。でも今は、銀髪の人に手を引かれて右へと進んでいる。 階段を上りきったところに長い廊下が続き、いくつもの大きな扉が並んでいる。銀髪の人はその一番手前のドアに手をかけた。 扉を開くと、部屋中がピンクのインテリアやレースなどで飾られた乙女チックな部屋。 翔の部屋くらいの間取りはあるんだろうけど、フリフリキラキラいろんな物たちが犇めいて狭く感じる。 部屋の中央には真っ白なグランドピアノ。明かりも点けず、薄暗い部屋に置かれたそのピアノの前に、銀髪を揺らしながら涼ちゃんのお兄さんが歩み寄る。 そしてピアノを開きながら… 透瑠 「香澄の部屋って言っても、生活感が無いでしょ」 一舞 「……え?」 さっきまで掴まれていた腕はいつの間にか解放され、あたしはぬいぐるみで埋め尽くされたピンクのソファーに座らされていた。 透瑠 「この部屋ね。翔が香澄のために用意したんだよん」 一舞 「…………」 透瑠 「香澄は気に入ってくれたみたいだけど、実際は数える程しか使われてない部屋だから、ショールームみたいだよね」 一舞 「……」 そう言って笑いながら椅子に座る。 …香澄。 あの子にも色々と複雑な事情があるのはなんとなくわかってたけど、あんまり詳しく聞こうとしたことないから実際はよく知らない…。 ポーーーン… ポローーーン… 透瑠 「ん…調律は大丈夫そうだね」 音を確かめた銀髪の人は、くるっとこちらに向き問いかけてきた。 透瑠 「お姫様、お好きな曲はありますかぁ?」 一舞 「…!」 (お…お姫様って…あたしはそんな可愛らしいタイプじゃないんだけどな…) 透瑠 「ん?リクエストにはなんでも応えちゃうよん」 (…そんな急に言われても) 一舞 「…え…っと」 ピアノの曲なんてあたし…あんまり知らないし。てか、今すぐ帰りたいくらいなのに…どうしよう。 透瑠 「わかった」 一舞 「…え?」 あたしは何も言っていないのに、そう言うと銀髪の人の指は鍵盤を叩き始めた。 Novel☆top← 書斎← Home← |