傷心8



――――――side一舞


 すっかり夜になって、涼ちゃんの家から1人で帰る。

 自分でもどうしてこうなっちゃうのかわからなくて、今にも涙が溢れ出しそうな状態。


(あたし、何か間違えてるのかもしれない)


 好きって気持ちが何なのか、その正体すらわからなくなって、とにかく今は、涙を堪えるのだけで精一杯だ…。


??
「かぁ〜ずぅまちゃん」


一舞
「!?」


 突然名前を呼ばれて顔を上げた目の前にはあの銀髪の人…。ニコニコと嬉しそうな笑顔であたしの前に立っている。


一舞
「あ………あの…さっきは…すみませんでした」


 深々と頭を下げて、追い出してしまう形になったことを詫びる。


透瑠
「いいんだよ、いつもの事だからぁ。そんなことより、泣きそうな顔してどうしたの?」

一舞
「…そ…んな顔してます?」

透瑠
「うそ。可愛い顔してる」

一舞
「…」

透瑠
「涼ちゃんと喧嘩しちゃったカナ?」

一舞
「…いえ…そういうんじゃないです」

透瑠
「ふぅん…」

一舞
「…」



 よくよく見ると、可愛らしい雰囲気の人だ。キュルリンと音がしそうなほど完璧な笑顔が、あたしの反応で一瞬不思議そうな表情になった。けど、やっぱりなんだか嬉しそうに、その人は微笑みながらあたしを見ている。


(…てかなんでこの人こんなに馴れ馴れしいんだろう…あたしは早く1人になりたいのに)


 銀髪の人の笑顔が、なんだか少々邪魔くさく感じて、あたしは顔を逸らす。

 そんな空気を読んでいるのかそれとも気づいていないのかまた、明るく柔らかい声をあたしに向ける。


透瑠
「ん〜……やっぱ泣きそうだよね〜…」

一舞
「……べつに」

透瑠
「わかった。ちょっと来て」

一舞
「えっ?」


 決して強くはない力でぐいっと腕を引っ張られ、何故か翔の家に連れて行かれた。



「おかえり」

透瑠
「翔ちゃん、香澄の部屋って開いてる?」


「開いてるけど、勝手に入ったらまた蹴られるぞ」

透瑠
「開いてるんなら使うぅ〜!女の子からの蹴りなら気持ちいいもんね」


「気持ちわるっ」


 翔と銀髪の人の会話について行けず黙っていると、あの大掃除の時にも開くことのなかった扉が開けられた…。









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