傷心5




銀髪の人
「わーかったよ。俺は翔のとこにいってるからー」


 涼ちゃんがあまりにも睨むものだから、銀髪の人はあたし達の横をすり抜けるようにして外へ出た。

 すれ違う瞬間あたしに向かって放たれたウィンクは、涼ちゃんの手によって払われたけど、まったく堪えない様子でヒラヒラと手を振って消えていった。




一舞
「・・・・」


「・・・・」

一舞
「ごめんね、急に…」


「いや、大丈夫。…てか来てくれるなら先に言ってくれたら良かったのに」

一舞
「うん。ちょっとビックリさせちゃおうとか思って…ごめんね、迷惑だったよね」


「え?いや、違くて!アイツに…会わせたくなかっただけで…」

一舞
「アイツ、ってお兄さんでしょ?」


「…まあ、そうなんだけどさ」

一舞
「・・・・」


「・・・・」


 困ったように頭を掻きながら、涼ちゃんの視線が泳ぐ。

 どうも本当に困っているようなので、あたしはやっぱり帰ろうかと口を開いた。


一舞
「また今度にするね。ごめん、おやすみ」


「へ!?え!?待って!?」

一舞
「え?」


「ごめん。大丈夫だから。入って?」

一舞
「・・・?」


 ぎゅう〜っと、後ろから抱きしめられる形で引き止められて、これでは帰るに帰れないわけで…。

 とにかく引き止めてくれたのだから、遠慮なくあがらせてもらうことにした。





 銀髪の人に驚いて見逃すところだったけど、可愛らしい洋館風の家の内部は、これまた可愛らしいカントリー調の家具やインテリアがセンス良く配置されていて、雑誌で見たようなその景色に目を奪われる。

 玄関はやっぱり広々としていて、なるほど藍原邸の広さにも涼ちゃんがそれほど驚いた様子がなかったことに納得。

 っていうか、さすがに靴は脱いであがらなきゃいけない。普通じゃないことに慣れ始めていたばっかりに危うく土足であがりこむところだった。



「こっち」


 涼ちゃんに促され、ついていきながら目に飛び込んできたのは、リビングへ続いているらしき扉の向こう。


一舞
「……わぁ」


 扉に施されたガラス窓から覗いたそこには、大きなグランドピアノが置かれている。それなのに少しも狭さを感じない部屋は、やっぱり此処も豪邸なんだと教えてくれる。



「はいはい、行くよ」

一舞
「え?…あ、うん」


 自分の家ではあり得ない光景に感嘆するあたしを、涼ちゃんは少し呆れた様子で引っ張っていった。



 螺旋状になった階段、その脇にはアンティークの小物が飾られている。その可愛らしさに頬を緩ませながら、置いて行かれないようについていく。



「どうぞ」


 促されて入った涼ちゃんの部屋。翔の部屋程では無いにしろやっぱり広い…。

 彼の趣味なのか、壁にはよくわからないレコードが幾つも飾られていて、そのそばにはCDの山と、キーボードや電子ピアノが並んでいる。

 大きめのベッドと学生らしい机、ベランダに続く窓には淡いブルーのカーテン。シンプルにまとまってるけどかなり色々なものがあって、それでいてきちんと整頓されていて綺麗な部屋。


(几帳面なんだね…)


 なんて、初めて入る彼氏の部屋にうっかり見入っていると



「適当に座ってて」


 そう言って涼ちゃんは部屋を出て行ってしまった。




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