異変1 お昼休み、あたしは独り校内をウロウロしている。 由紀ちゃんが担任に呼ばれたので、香澄はそこに付き添っていったから、暇つぶしに探検しているのだ。 迷うほどの広い学校、受験の時は本当に大変だった…。 此処はいわゆる普通高校とは違って、特に音楽系の科目が中心の専門高校…受験内容も、通常の筆記だけではなく得意な楽器を使った実技試験もある。 あたしの場合は、小さい頃からマイギターをガチャガチャかき鳴らすくらいのことしかできなかったから、ピアノ科を受験するために、1年前から慌ててピアノの特訓を始めて、なんとか課題をクリアして今に至るんだけど… 本来なら軽音科を受験するべきのあたしがピアノ科に居る理由は1つ。由紀ちゃんのため。 由紀ちゃんは所謂お嬢様。とにかく家柄とか振る舞いとか色々、小さな頃から叩き込まれて育ってきた生粋のお嬢様なのだ。 これまでは親が決めた女子校、しかもお嬢様限定の学校に行くのが当然とされていたらしく、おかげで家族以外の一般的な異性に対する免疫が無い。 なのに、転校キッカケで知り合っただけのあたしと一緒の高校に通うだけのために、両親の反対を押し切って受験に望んだのだ。 由紀ちゃんのお母さんは、彼女の熱意に負けて納得してくれたと聞いたけど。お父さんはまだ許してくれていないらしく、校長を通じて何かしら説得を試みようとしてるみたい。 大人しく見えて、由紀ちゃんはなかなか頑固だ。いや、意志が強いって言ったほうが合ってるのかな? 頑張り屋な性格だからきっと、すぐに香澄やあたしの付き添いなんて必要なくなるだろう。 そんな事を思い出しながら歩いていると、軽音科に辿り着いた。 今朝と同じく、賑やかな壁面。今朝と違うのは、軽音科の生徒とすれ違えること。 そんな賑わう廊下をのんびりと歩きながら、今朝の照ちゃんの言葉が頭をよぎる。 …この廊下の突き当たりに、中庭に抜ける場所がある? (…あ。あった!) ガラスの扉が視界に飛び込んで、あたしは歩みを早めた。 …唐突に《行くな》と釘を刺されれば余計に気になるものだ。そして、気になったら確かめずには居られない。そこにいったい何があるのか、そんな好奇心を抑えられない。 あたしはそのガラス扉を開き、中庭に降り立った。 綺麗に刈り揃えられた芝。数本の桜の木。中央に噴水とレンガの道。 案外、風通しが良くて気持ちがいい空間だ。 ぐるりと見回して、視線が止まる。 他の校舎とは雰囲気の違う大きな建物。アレが照ちゃんの言っていたものなんだろうか… あたしは…レンガの道に足を踏み出し、その建物に向かった。 Novel☆top← 書斎← Home← |