予感13





「もういいだろ」


 立ち尽くす俺を後目に翔くんは、蓮を軽く睨みつけなが言葉を続けようとする一舞を制し、柔らかい口調で宥め始めた。



「ほら。あんま睨んでやんなよ」

一舞
「だって…」


「俺が蓮に責任持たせちまってるからこうなったんだよ。面倒な機材使ってる俺が悪い」

一舞
「……」


 本来の矛先は自分だと主張しながら、一舞の次の言葉を無くさせた後。翔くんは由紀ちゃんに視線を移した。



「ごめんな。キツかっただろうけど許してやってくれ…な?」

由紀
「っ!」

一舞
「ちょ!近いから!」


「は?なんだよ…話をするときは目ぇ見なきゃダメだろ」

一舞
「そうだけど…」

涼「……」

(…由紀ちゃん真っ赤だな)


 それにしても…この数年間、翔くんは女子どころか他人を全て遠ざけていたから、こんな風に女の子に優しい言葉をかけている姿を見るのは久しぶりだ。

 これこそ翔くんらしい姿という感じはするけれど…。

(なんだろう…なんか…)




「蓮、責任を押し付ける形になって悪かったな」


「いえ…俺は…」


「この子にさ…色々、優しく教えてやってくれよ。お前だって3年なんだし、引き継ぐ奴いねーと困るしさ。…な?」


「…」


「・・・」

(いや翔くん、それは無理だ。アンタの機材デリケートすぎて今まで蓮以外誰も触れなかったのに。てか、それ以前に蓮に優しさなんて…)


 俺がそう思った矢先。


一舞
「大丈夫だよ蓮ちゃん」



「?」


一舞
「あたしがサポートするから」


「えっ?一舞それって」


 つい話に割って入ってしまった俺に、一舞は言った。


一舞
「うん。 バンド部入るよ」


「・・・」

一舞
「だから蓮ちゃん…大丈夫だからね」


「…………」


「サポートねえ、ずいぶん大きく出たな。大丈夫なのか?」

一舞
「蓮ちゃんが苦手な部分を手伝うだけだよ。何か問題ある?」


「いや。じゃあ俺は毎回ここまで連れて来なきゃならないのか、と思って」

一舞
「それは無いんじゃない?あ、でも、家政婦はサボるかもしれないけど」


「それは困るな」



「・・・」

(なんだこれ・・・?)


 翔くんが最近、元の感じに戻ってきたのは感じてたけど、なんであんなに対等なんだ?あれじゃまるで友達だ。

 2人が仲良くなったのはわかってたけど会話するのを見たのは初めてで……なんて言うか…この雰囲気はなんだかショックだ。

 とにかく一舞が、俺と居る時より気を使っていないのが感じ取れる…。


 仕方ないのはわかってる。一舞のあの性格と、翔くんの面倒見の良さだ、気を許せばどんどん近くなるのもわかる。だから怖い。


(俺・・・翔くんには勝てる気しないんだよ)


 2人の間を流れる空気が他とは違うようにも見えて、俺は自分の立場も忘れて立ち尽くしていた。




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