予感12 ―――――size 涼 (…よかった) チューニングルームの前で一部始終を見ているしかできなかった俺は、ホッと息を吐いた。 由紀ちゃんを抱きしめる一舞がすごく逞しく見えて胸を撫で下ろした。だけど、もともと声量のある一舞の声は店中に響き渡り、あちこちの担当場所から部員が集まって来てしまった。 気づいた時には既に人だかり。途端に慌てる。 『…すげ〜』 『蓮さんを黙らせたぞ』 あちこちからそんなヒソヒソ話が聞こえてくる。 (…しまった、彼女の武勇伝広めてどうすんだよ) 後悔先に立たず。チューニングルームの前は、集まってきた部員たちで犇めいている。 涼 「っ!」 俺はとにかく、集まった奴らをどうにかしようと振り返ろうとした。その時。 翔 「ほ〜ら 散れ散れ」 『あ!翔さん!お疲れッス!』 翔くんが部員たちを散らしてくれた。 さすがサボってた期間があったとはいえここではカリスマ。翔くんの一声で部員たちは持ち場へ戻って行った。 翔 「…」 俺とすれ違いざまに、俺の肩に触れ、翔くんは無言で顔を左右に振った。そして俺から手を離したかと思うと、一舞の側に近づいて行った。 (…そうだよな) 翔くんが俺の立場ならこんなゴタゴタは起きない。女子が泣くような事にもならないだろう。 (…情けねーな俺、彼女まで巻き込んでこんな…) …さすがに凹む。でも一舞は、こんな周りのざわめきなんか気にしないで由紀ちゃんを守ろうと必死だ。 蓮はとりあえず落ち着いてくれたけど、この先また同じことが起きないとも限らないし…ちゃんとこれからの事考えてやらないとな…。 Novel☆top← 書斎← Home← |