予感11 「黙れよハゲ!」 蓮 「!!?」 由紀 「!!?」 あたしの声は狭いチューニングルームに盛大に響き、蓮ちゃんが止まった。由紀ちゃんも、驚いて涙でぐしゃぐしゃになった顔をこちらに向けた。 瞬間的な怒りを声に出した途端冷静さが戻って、頭が冷えたのはいいけれど。それにしたってもっと他に適切な台詞が無かったのかあたし。 一舞 「………由紀ちゃん、大丈夫?」 由紀 「…かずまちゃん」 自分へのダメだしは後回し。まずは由紀ちゃんの傍へ歩み寄る。 涙をハンカチで拭い、ギュッと抱きしめて落ち着かせようとするんだけど、手渡したハンカチで顔を覆って更にシクシクと泣き続けるばかりだ。 背中をさすりながら、キッと蓮ちゃんの方を見ると、蓮ちゃんはばつが悪そうに口を尖らせて目を逸らした。 あたしは静かに、蓮ちゃんに向かって言った。 一舞 「あのね蓮ちゃん」 蓮 「…」 一舞 「女の子に対して冷たいのは知ってるけど由紀ちゃんは、あたしとは違うんだよ…あんなに怒鳴るなんて…反則だよ」 蓮 「……わかっ」 一舞 「わかってない」 蓮 「っ…」 一舞 「あたし、蓮ちゃんはもう少し大人だと思いたいんだけどな」 蓮 「………」 一舞 「由紀ちゃんはいつでも一生懸命なんだよ。頑張ろうとする子なんだよ。そこに気づこうともしないで、思い通りにならないからって怒鳴るような男…あたしは嫌いだから」 蓮 「…………悪かった」 由紀 「………」 一舞 「…………」 その謝罪の言葉は、由紀ちゃんではなくあたしに向けられたものだけど、とりあえず蓮ちゃんも落ち着いてくれたみたいだから良しとしよう。 昔からそう、何故かはわからないけど…蓮ちゃんは女の子に厳しすぎなところがある。それがわかっていながら、由紀ちゃんがこの場に居させられてるのも仕方ない事情があるんだろう…それはわかるけど。 (あ〜ぁ、心配的中しちゃったな…てか最初から一緒に入部してあげれば良かったんだよね。由紀ちゃんごめんね…) 泣きじゃくる由紀ちゃんをなだめながら、ようやくあたしは心を決めたのだった…。 Novel☆top← 書斎← Home← |