予感6




一舞
「…あの…離して?」


「俺に任せるって言うなら離してやる」

一舞
「なんだよそれ?」


「これ以上こき使ったら、俺が涼にシメられるからな」

一舞
「………」


(涼ちゃんに負ける気なんか無いくせに…)


 これはやっぱり翔の気遣いなんだってことくらいわかる。

 わかるし…そこまで言われちゃうと、任せるしかなくなってしまう気がして…握られていた手をなんとか離してもらった。


 店へ向かうとは決めたけど、制服のまま行ったら入部を決めたみたいにとられそうだから、一旦家に戻って着替えることにした。その間、翔はあたしの家の前に車を横付けして待ってくれていた。


 着替え終わって部屋から玄関までの階段を降りると、ママがいて。



「店に行くのか?」


 なんて、ちょっと口の端を緩ませて聞いてくる。

 翔の車のエンジン音が玄関にも軽く響いていて、ママは何か勘違いしているっぽい。



「隣の息子とも仲良くなれたみたいだなぁ」

一舞
「…変な妄想膨らませないでよね」


「涼みたいなガキより車持ちの男の方が何かと便利だぞ?」


 あたしの言葉なんて聞こえませんとばかりにニヤニヤしながら言ってくる。

 話してても無駄だと思ったから、ママに手を振ってそそくさと家を出た。


 外に出るなり翔の車の助手席に転がり込むように座ると、ため息が漏れた。



「あ?」

一舞
「…ママがね…ちょっと面倒くさくて」


「…あ〜なるほど」


 納得したのか翔の車は走り出した。


(あ…そういえば)


 助手席に自分から乗るのは初めてだ。

 なんだか思い出すと可笑しくなってくるけど、そういえばあの時の翔が何を考えていたのか、未だに謎なままだ。


一舞
「………………?」


(そうだ)


一舞
「…翔?」


「なに」

一舞
「翔がこの車で最初にあたしを店まで連れて行ってくれた時の事、覚えてる?」


「……………あぁ」

一舞
「ずっと不思議だったんだけど。理由…聞いてもいい?」


「……………べつに理由なんか無いぞ」

一舞
「…だって…その後のライブの時だってあたしの方に指差したりしてたじゃん」


「…そうだっけ?」

一舞
「…そうだよ」


「………まぁ…あの時はただ…聴かせてみたかっただけだと思うけどな…」

一舞
「……他人の事言ってるみたいな言い方」


「……想像してた反応は返ってこなかったけどな」

一舞
「………え?」


「いや」

一舞
「…?」


 クスクスと笑いながらその時の事を思い出してるみたいな雰囲気。


一舞
「…なにさ」


「ふ…可愛いな」

一舞
「は?」


「いや」



(なんだよも〜…)


 なんだか翔の考えてる事がわからなくて、リアクションに困ります。




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