予感5




(翔…店に行くのかな?…由紀ちゃんの事もあるし、一緒に連れて行ってもらえないかな…)


 カップに口を付けながら、チラッと翔を見てみる。



「…ん?」


(あ、気づいた)


一舞
「ううん」


 素直に聞けばいいのに、なんでもない振りをしてしまうのは何故なのか。



「…お前さぁ」


 すると急に、翔が話題を振ってきた。


一舞
「…何?」


「お前はバンド部に入らないのか?」


 …なんてタイムリーな話題なのか。


一舞
「…ん〜……一応、誘ってはもらったんだけど…迷ってて」


「…ふぅん…なんで?」

一舞
「な…んでって」


「断る理由無いだろ?」

一舞
「うん…まぁ…」

(確かにやらない理由は無いけどさ…)


 自分でも迷ってる理由はハッキリとはわからない。

 由紀ちゃんの事は心配だし、一緒に入部してあげるのがきっと一番いいことなんだろうけど。

 涼ちゃんとのことであたし的に、ちょっとした気がかりもあったり…それが良い方向に進めばバンド部に居ても問題ないだろうけど、悪い方向に転べばまた…。





「……俺がどうのこうの言う事じゃねーから、まぁいいけど」

一舞
「………」


 あたしの煮え切らない態度を見て、煙草をもみ消しながら翔は話題を止めた。



 何故だろう…。

 いつも翔は、深く突っ込んで来ないというか、まぁ…それほど興味が無いだけなんだろうけど…聞かないでくれるのはとても助かる。


一舞
「……翔は店行くの?」


「行くよ。連れて行ってやろうか?」

一舞
「うん」


 まるであたしの気持ちを察してくれてるみたいに、翔はあたしが望む応えをくれる…。

 不思議な人…。

 無理に何かを聞き出そうとしないし、あたしはあたしのまま楽にしてていいんだって思わせてくれるような、そんな感じがする。


(涼ちゃんが慕うのもよくわかるな…)


 なんだか少し楽な気持ちになって、後片付けをしようと立ち上がる。




「いいよ。それくらい俺がやるから」

一舞
「…え?だって」


 驚いて、翔の顔をマジマジ見てしまった。


一舞
「……でもコレもあたしの仕事だし」


 ちょっと返事に困っていると



「ダメ」

一舞
「ダメってなにさ」


 二文字で返されてはどう断っていいかわからなくなるじゃないですか。

 翔は、眉間にシワを寄せて困っているあたしに近づき「仕事減らせ」なんて言いながら…


(!)



「ほら…荒れてる」


 あたしの手を握った。



「…な?」


 少しカサカサするあたしの手のひらをさすりながら、優しく言うけど…お兄さん…。

 ボディタッチはやめてください…みたいな。





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