予感4




 なんとか頬の熱さも正常になり、気を取り直して買ってきた物を片づけ夕食を作る。

 ほとんど使われていなかったであろう広々としたアイランド型のシステムキッチンは、なんて言うか憧れだったから…翔の家で料理をするのは楽しい。っていうか、自分の家ですることが無くなってしまったせいなのか、こうしてキッチンに立っているだけでもなんだか気持ちが落ち着く…ような気がする。


 夕食の準備が出来上がった頃、ガタガタと珍しく物音をいくつも響かせながら翔が帰ってきた。



「ハラ減った…」

一舞
「…………」

(…帰宅の第一声がハラ減り宣言とか、中学生かと思うわ)



 ハラ減った…と、ため息を漏らしながら洗面所で手洗いをして戻ってきた翔に「もう食べてもいいよ」って言ってあげると



「あぁ、サンキュ」


 と、一言。食卓の上の料理から目線を外すことなくそう言って、片っ端から次々と口に運ぶ。そして、食べながら今日もよく喋る日らしく色々と話しかけてくるのだ。



「今日も美味い」

一舞
「そ?…ありがとう…」


「でもコレ…何て料理だ?」

一舞
「え……適当に作ったから名前とか無いなぁ…」


「…創作系か…すげーな」

一舞
「いや適当にあり合わせで作っただけだから。創作とか言い過ぎ」


「…ふぅん…お前…一見、料理とか出来なさそうに見えるのに上手く作るよなぁ」

一舞
「誉められてるのか貶されてるのか迷う言い方やめてよ。返事に困るから」


「一応、誉めてんだけど」


 ちゃんと噛んでいるのか心配になるくらい次から次へと料理を口に運びながら、喋りも器用にこなすから。見ているとなんか面白い。

 一応、あたしも一緒に食卓に座り、一緒に夕食を食べる。これは翔との約束事。また倒れたりしないように…って。



 出された料理をキレイに完食し、お腹が満たされると、翔はいつものようにタバコに火を点ける。


(思ったよりゆっくりしてるけど時間大丈夫なのかな?)


 食後のコーヒーを煎れながら、ふと気になった。




一舞
「……」

(それにしても…)


 なんでこうもアチコチ綺麗な造りなのか。

 煙草を持つ指も、煙を吐き出す仕草も、まるで芸術品のような完成度だ。

 それはもう、コーヒーを差し出す手が思わず止まってしまうほどに。



「…………なに」

一舞
「んっ?…あぁ…いや、美人だなぁと思って」


「…………は?」

一舞
「羨ましくて見とれてたんだよ。いけませんか?」


「……あぁ、そう。別に減らねーからいくらでも眺めて」

一舞
「…自分が美人なのはわかってます、みたいな言い方だね」


「わかってるよ」

一舞
「…………」

(清々しいくらいの自信家だ…)



「早くコーヒー頂戴?」

一舞
「あ、はい」


 慌ててカップを差し出すあたしの顔を見ながら、ニヤリと微笑んだ翔の顔は、やっぱり完璧。


(ズルいなぁ…)


 あまりの自信家っぷりに多少悔しくなる。

 向かいの椅子に座って自分のカップに口を付けると、「お前も可愛いな」なんて、向かい側からの囁きが飛んできた。


 よくもそんな言葉が素で出てくるもんだと、恥ずかしくなったのは内緒。



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