予感3 涼 「こんなに買う必要あったの?あの人独り暮らしだよ?」 一舞 「まとめ買いしたから…ごめんね重いよね」 涼 「いや、このくらい大丈夫ですけどね」 少々重たくなったエコバッグを2つ。あきらかにやせ我慢の涼ちゃんが、藍原邸まで徒歩で運んでくれる。 一応2人で分担して運ぶつもりだったんだけど、涼ちゃんがあたしに持たせてくれないから結局は任せる形になってしまっている。 本当に優しい。優しいけど、なんか本当に申し訳ない。これから部活で重たい機材とか運ぶかもしれないのに…。 涼 「彼女に荷物持たせて歩くなんてカッコつかないからな」 なんて言って無理してるけど、あきらかにいつもより歩くペースは遅くなってしまっているんだから。 そんなこんな、無理している涼ちゃんを見守りながらしばらく歩いて藍原邸に到着。 一階のリビングダイニングの、大きなダイニングテーブルに荷物を下ろす。 一舞 「ありがとう」 お礼を言うあたしをチラッと見て 涼 「ご褒美は?」 と、上目使いで聞いてくる。 一舞 「へ?」 まったく考えてなかったから間抜けな返事をしてしまった。 涼ちゃんは、ふぅ〜っと1つ息を吐いて再びこちらに向き直すと、あたしの顔を覗きこんで 涼 「別にご褒美欲しくて頑張ったわけじゃありませ〜ん」 そう言って笑った。 ホッとしてつられて笑うと ![]() (!) 気が緩んだ隙をつかれてキスされてしまった。 涼 「よし頑張ろ!じゃね」 あたしのリアクションを待たず、そそくさと部活に向かって行ってしまう涼ちゃん…てか、他人の家でこういうのってなんだか困っちゃうな。 一舞 「………」 涼ちゃんが去って、静まり返った室内。テーブルに置かれた荷物を片づけようと手を伸ばすけど、なんだろう…変なの。 一舞 「…………」 さっき触れた感触がまだ、あたしの唇には残ったままだけど…なんだろう…。 何かが足りない気がするのは…。 自分の唇を指でフニフニつつきながら、どうも腑に落ちないのがおかしいのだ。 いったい何が足りないというのか。彼氏とラブラブしてるんだから、もっと喜ぶとか照れるとかあってもいいのに。 自分の感覚がよくわからない。変だ。とにかく訳が分からない。 そんな自分に少しイライラしながら、ゴソゴソと乱暴に荷物を片づけ始める。 早くしないと翔が帰ってきちゃうんだから。さっさと気持ち切り替えて仕事しなくちゃ。 今の自分の顔は…たぶん誰にも見せられないだろう。鏡を見なくてもなんとなくわかる…絶対変な顔してる。 きっと翔なら気づいてしまう。あたしの内心がぐちゃぐちゃなのを…。 一舞 「……………」 (あ…あれ?) カーッと熱くなる頬。今更キスに照れてしまったのか…って、どんだけ鈍いんだあたし。 …なんて本当はわかってる。 入院中に間近で見た翔の顔…あの時の事がフラッシュバックしてしまったからだ。 あの時、翔は気づいてた。あたしと涼ちゃんがキスした事。 何故かはわからないけど、気づかれてしまったのはわかったんだ。 気づかれたからと言って、翔の行動の理由なんかわからないけど。 ただ、わかるのは…あの時の自分の心臓が、とんでもない早さで脈打ってた事実。 (…きっとフェロモンのせいだから!) そう言い訳をしても、頬の熱さがひいてくれないのは困ったもので。 とにかくあたしは、慌てて顔を冷やす作業に取りかかったのだった。 Novel☆top← 書斎← Home← |