音色13




 しばらく2人で笑い続けていた。


 どのくらいの時間そうしていたのか、笑い疲れてため息をつくと…大きな手が頭に触れた。



 翔があたしの頭を撫でている。


(…なんだろコレ?いったいこの人…どうしちゃったんだろ?)


 翔の顔をそっと確認してみれば、なんとも言えない優しい表情であたしを見ている。



「…からかってゴメンな」


 あたしの目を見て、そう言った。

 初めて会った時の翔からは考えもつかないようなこの妙な優しさ…そして豊かな表情…。


 いったい…何がきっかけ?


 翔の行動を不思議に感じながらも、悪い気はしていない。




 しばらくして…黙って静かに、翔が手を離した。




「……」

一舞
「……」



 お互い無言で、なんとなく照れくさいような、変な空気が病室に漂う。




「…帰るわ」



 その空気に耐えられなくなったのか、彼は突然立ち上がった。



一舞
「…あ?…あぁ…うん」



 変な事にはなったけど、帰ってしまうのはなんだか惜しい気がしていると…




「…あ」



 部屋を出るところまで行って、何か忘れたように Uターンしてくる。


 そんな行動をポカンとして見ていたあたしに向かって…人差し指を口元に起きながら悪戯っぽくこう言った。



「さっきの事、涼には秘密な」

一舞
「………」


 いったい何なんですか。


一舞
「言えるかっ」


 つい突っ込み口調で返すと、「ははっ」とひと笑いして、満足そうに手を振りながら帰って行った。

 翔が出て行った病室の入り口を見つめながら…よくわからない気持ちを抱きながら。


 耳に残ったあの《音色》が、脳内を駆け回っていた…。




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