音色12





「なんだ、喧嘩にでもなったのか?」


 あたしが黙り込んだから、翔が心配そうな顔をしている。



「そういえば倒れる前も変なこと言ってたなお前。喧嘩の原因は何だ。俺か?」

一舞
「違うよ。翔がどうとかじゃないし…喧嘩じゃないし…むしろ逆」


 こういう時って、どう言えばいいんだろう…ホント、なんて言っていいかわかんない。



「………」


 言葉に迷うあたしをジッと見て、何故か翔が切ない表情になる。そして…



「…ふぅん」

一舞
「!?」


 突然あたしに顔を近付けた。


 それはもうかなりの至近距離で、おでこも鼻もピッタリくっついている。あと数センチ近かったらコレって…!


一舞
「〜っ!!」


 あまりの近さに何も言えず、動けず…目をギュッと閉じたまま固まるあたし。ここからどうするつもりなのか、翔も動かない。

 鼻がくっついたままで、こんなんじゃ息もできないし…どうすればいいの!?




「…………」



 こんなのたぶん。突き飛ばせば済む話なのかもしれない。でも何故だか体が動いてくれなくて…。


一舞
「っ…」


「……………」



 いい加減、苦しくなってきた頃、翔は離れてくれた。そして優しい声色で…「悪い…迷った」…って言った。


一舞
「………」


(…は?…迷っ…?)


一舞
「はっ!?何言ってんの!?馬鹿なんじゃないの!?」


 あたしが怒鳴っても、翔は笑ってる。

 あたしはただ怒鳴りながらもドキドキして、声が震えてしまった。


 困ったような顔で微笑みながら、今度は翔の手が近づいてくると、過敏になっているあたしは、それだけで体がビクついてしまって…それに気づかれてまた笑われてしまった。







 翔の笑い声はちょっとキーが高くて、何かの音色に似ている。

 歌っているときの声とは少し違うけど…なんだか和む。


 ただ、今笑われているのがあたしのリアクションのせいだってこともわかってるから、それはちょっと憎らしい。




「ホンっト面白いな」



 病院だというのに、大笑いしすぎて涙目になりながら言ってくるけど、あたしは一個も面白い事した覚えは無いんです!



一舞
「もーっ!わけわかんないっ!!」



 恥ずかしいしムカついてるのに、わけわかんないし文句だって言いたいのに…笑う翔を見ていると、困ったことに戦意喪失してしまうのだ。


 だって、彼の笑い顔は案外イケメンからはかけ離れていて、そんなクシャクシャの笑顔を惜しげもなく見せられちゃうと、こっちまで可笑しくなってくる。

 そう。笑うしかなくなっちゃうんだ。


 ホント…意味わかんない人。





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